訳ありヒロインは、前世が悪役令嬢だった。王妃教育を終了していた私は皆に認められる存在に。でも復讐はするわよ?

naturalsoft

復讐はします!

私は政争に負けた。

そして今、処刑されようとしている。


まったく、どうしてこうなったのか…………

まだ敵国の戦争に負けたのなら諦めもつくが、まさか、自国の下級貴族である男爵令嬢ごときにしてやられるとはね。


悔しい!

決して認められない!

絶対に許せない!!!


この恨み、絶対に晴らしてやるわ!


そして、婚約者であった私より男爵令嬢を選んだセルシオ第一王子、長年の交流のあった婚約者の私よりその女を選んだ貴方も絶対に許さない。


これで勝ったと思うな────


そこでギロチンの刃が落ちて私の意識は無くなった。


そして────


オギャー!

オギャー!



私は赤ちゃんに転生した。

無論、訳のわからない神の力が働いた訳ではない。

死ぬ前に、私は自分の命が失われた場合に、過去に戻る魔術を牢屋の中で構築していた。


その発動する力の源は【生贄】だ。

私は見せしめの為に最後に処刑される事が決まっていた。


私の前には両親を始め、派閥の仲間や領民など、私に絶望を与える為に、先に何十人も処刑されていた。それを魔術的に生贄と認識させて、その力を使い過去に戻ったのだ。



しかし産れた瞬間まで戻ったのは予想外だった。


そして、5年の歳月が流れて私は自分の置かれた状況にショックを受けていた。


「なぜ!?自分の過去に戻ったのでなく、宿敵である男爵令嬢に転生しているのよっ!?」



おかしい。

あの魔術は我が家系に伝わる【時渡り】の秘術であり、過去に戻るだけで、他人として産まれ変わるなんて文献に載ってなかったわ。


過去に戻る秘術は、直系の家系のみ教えられるが、実際に使ったと言う話は聞かない。

本当に過去に戻ったのか確かめる手段がないからだ。そして、発動には生贄が必要でもあるから、そう簡単に試す事はできない。



「今の本来の私は、過去の通りに動いているのかしら?」


別人格とはいえ、自分自身が二人いると考えれば、何としても公爵令嬢である自分に、事情を話して協力者として手を結びたい。


それには自分自身しか知らない情報を伝えればいい。まだ5歳ではダメだ。せめて10歳になるくらいまで待たないと、動かせるお金や権力が足りないわ。


私は過去の知識を利用して、男爵家に利益をもたらした。流行する商品の販売や、今後発見される鉱山の場所など教えて莫大な財産を男爵家にもたらした。


ルード男爵家の父親は私の事を天才、先読みの巫女、聖女などなどともてはやした。


私は子供ではあったが、その財産を使い個人的に信用できる配下を雇った。


「イオンお嬢様は本当に聡明でございますね」

「本当にまだ10歳とは思えませんな。天才とはいる所にはいるのですな~」


基本的に父親の手柄にしていたが、バカな父は私の功績だと言い回った為に、私の正体というか、私の存在が一部の権力者に知れ渡ってしまった。


今の私は、前回私を罠に嵌めて殺した宿敵イオン・ルード男爵令嬢である。


正直、このまま何もしなければ今世の『私』は無事に生きられるでしょうね。



でも───



大切な家族を

大切な家臣を

大切な領民を



処刑したセルシオ第一王子、および王家を許すつもりはないわ!



その日、私は再度覚悟を決めて決意するのだった。


そしてさらに数年経って、12歳の時に始めて公爵令嬢である『私』と対面する事になった。


「本日はお招き頂き光栄でございます」


丁寧にカーテシーをして挨拶した。


「まぁ、ご丁寧にありがとうございます。御初にお目に掛かります。シオン・ミネルバと申します」


自室に個人的に招かれた私は用意された椅子に座りテーブルを挟んで対峙した。


シオン公爵令嬢は侍女を下がらせ、部屋には二人のみとなった。


「…………さて、先に頂いた手紙の内容ですが、状況確認をさせて貰います」


先程とは違い、鋭い目つきでイオン男爵令嬢を見つめるシオンがいた。


「無論です」


あらかじめ手紙にぼかしながらも、シオン公爵令嬢の秘密を書いて送っていたのだ。それから答え合わせをするかのように、1時間ほど話し合った。


「信じざるをえませんね。まさか、我が家の秘術を使い、未来から戻ってきた自分自身とは…………」


「いくつかの誤算もありましたがね。まさか私が宿敵の人物になって、過去に戻るなんて予想外過ぎですわ」


シオン公爵令嬢は少し考えるように話した。


「それで貴女の望みはなんですの?今世では貴女自身が何もしなければ、私は王妃となってこの国の頂点に立てるでしょう。私に何を期待しているのですか?」


イオンは静かに言った。


「復讐を」


長年の婚約者を捨て、成り上がりの男爵令嬢に入れ込み、でたらめな罪で断罪し、王子の言葉に国王達も便乗して私達を処刑した。絶対に許せない!


「そこがわからないわね。いくらセルシオ王子が男爵令嬢に入れ込んでも、我がミネルバ公爵家の方が後ろ盾には良いはずだけれど。男爵令嬢を側室として迎えるだけで、後ろ盾と愛する令嬢の両方が手に入るのよ?うちの国王はそこまで愚鈍ではないはずだけど?」


いくら息子である王子のお願いでも、強大な権力を持つ、我が公爵家の後ろ盾を持って、貴族達のバランスを保つ。一方的な破棄など王家の権威を失墜させるだけでメリットがないのに…………


「理由は2つありました。この身体の持ち主は、稀に現れる光属性の魔力に目覚めて『聖女』として崇められるのよ」


!?


「……………なるほど、そういうことね。男爵令嬢が聖女となり王妃となれば、『教会』が後ろ盾になるのね。教会も聖女が王妃となれば権力を握れるし───ああ、それで強すぎる権力と資産を持つミネルバ公爵を潰そうとした訳ね」


「そう、王家以上に資産を持つミネルバ公爵を潰す良い口実になったのよ。私を人質に両親を呼び出して………」


悔しい!両親は自分の命と引き返えに、私の助命をお願いしていたのに。アイツらはニヤニヤしながら、尊厳を踏み躙った。


拳に力が入り、目から涙が溢れてきた。


「わかったわ。協力しましょう。私も絶対に王妃になりたい訳じゃなかったしね。前回の自分の無念を晴らすのに協力してあげる。ただ『何処まで』やるのか決めましょう。それと報酬についてもね」


流石は私だ。

ただでは動かないわよね。


「本当にいいの?」

「ええ、だって王家はうちを潰す気なんでしょう?なら危険な芽は摘んでおかないとね?」


シオンは不敵な笑顔で言ってきた。

それから日が落ちるまで話し合った。


それから数年掛けて公爵家の両親を説得し、復讐をする機会を待つことになった。


私達は学園に入学する歳になり、貴族が通う王立の学園に入学することになりました。


そこでいきなり問題が発生した。


「な、なに!コレは!???」


頭の中に何かが流れ込んできたのだ。

これは記憶………?


違う!

誰かが私を乗っ取ろうとしている!?

私は高熱を出して倒れてしまった。

僅かに残っていた意識で、精神の乗っ取りの事を伝えると、シオン公爵令嬢は権力と財力を使い、高位の神官を呼んでお祓いをしてくれた。


「ハァハァ、た、助かったわ…………」

「大丈夫!?何があったのか話せるかしら?」


イオンは流れ込んできた記憶を頼りに、前の時間軸で【私】を嵌めた男爵令嬢の事を話した。


「貴女を、『私』を嵌めた男爵令嬢は【悪霊】の類だったのかしら?」

「よくわからないのだけれど、別世界から精神だけ飛んできた様な感じだったわ。まぁ、悪霊と言っても良いかも知れないけど」


少し考え込んで呟いた。


「もしかして、貴女が男爵令嬢に産まれ変わったのは悪霊がまだこの世界に現れて居なかったからかしら?でも本当によかったわ。貴女が乗っ取られたら全てが終わっていたのよ!王家を潰す計画などすべて、貴女を乗っ取った悪霊も、わかっているはずだから、逆にこちらが窮地に立たされる所だったわ」


!?


「本当に神官様のお祓いが効いてよかったわ」


「なるほどね。確かに。それで魂の空いていた人物として過去に戻れたのかしらね?まぁ、憶測だけど。でも、これで敵は王家だけになったわ」


「ええ、最後まで協力するから思いっきりやりましょう!」


二人はお互いに笑い合うのだった。



それから入学してしばらくして───


「取り敢えず、シオン公爵令嬢はまだセルシオ王子の婚約者のままなのよね~」


まぁ、それも計画のうちなんだけど。

しかし、どうしてこうなるのよ?


私自身は何もしていないのに、狙ったかの様にセルシオ王子と一緒になる時間が多かった。


廊下でぶつかったり、学食で隣になったり、授業でペアになったりと、なんやかんやでセルシオ王子は無意識にイオンに惹かれていった。


だから私は意図してないんだよぉ~~~

そりゃ、罠に嵌めるためにハニートラップも考えていたけど、今は私を処刑したセルシオ王子なんて一緒にいたくないのよっ!



コソコソッ

「シオン様、宜しいのですか?あんな男爵令嬢ごときにセルシオ王子が執着している事に!」



すぐにイオン男爵令嬢とセルシオ王子の仲は学園中に噂になった。何も知らない取り巻き達が密告してくるが──


「フフフッ、いいのよ。イオン男爵令嬢は優秀ですからね。勉強もマナーも完璧でしょう?私はイオン令嬢を大切な友人として認めてましてよ」


そういうシオン公爵令嬢の、懐の深さに周りは尊敬の眼差しで見つめた。


そして、イオン男爵令嬢に厳しい目が向けられる事になるが───


「ぐぬぬぬっ、またイオンさんがトップの成績ですって!」

「なんで、マナーの講義で王族のマナーを完璧に体現できるのよ~~」



難癖を付けようとしても、すべて完璧であるイオン男爵令嬢にケチを付けることができない状態だった。前時間軸では王妃教育も終わっていたので当然の結果なのだ。


そして、多くの令嬢、子息から注目される存在となっていた。


「悔しいけどイオン様は優秀ですわね」

「そうですわね。自慢などせず、静かに勉強して、困っている方を助ける人格者ですわ」


「あのシオン様とも仲がよくて、いつも一緒にいらっしゃいますしね。すでに側室として認めていらっしゃるのでは?」


いつの間にか、令嬢達も嫉妬より優秀な者であるイオンを認める様になっていた。



「ここまでは順調ね」

「はぁ~~私はいい加減にツライわ~~~」


イオンはセルシオ王子との時間が辛かった。

最近はグイグイと来る所もあり、やんわりと断るのも難しくなっていた。


「影は付いているのよね?」

「無論当然よ。王家の影をイオンにも付けてあるわ」


未来の王と王妃になる人物には隠れて護衛などが付いているのだ。


「そろそろかしら?」

「ええ、今度の王家主催の大きなパーティーで行動を起こすみたいよ」


二人はお互いにクククッと不敵な笑いをするのだった。


そして、そのパーティーの開催日になった。


王家主催のパーティーという事もあり、各貴族の当主など多くの人々が参加していた。


「ふむ、なるほどね…………」


シオン公爵令嬢はワインを一口飲んで呟いた。


「あら?どうしたの?」


側にいたイオンが呟きに気づき尋ねた。シオンはワインをイオンに渡して飲んでみてと言った。


そしてイオンも一口ワインを飲んで意味がわかったという顔をした。


「ああ、そういう事ね。思った以上に王家の懐事情は寂しいようね?」


そう、王家は求心力と威光を示す為に新年と、社交シーズンの夏に大規模なパーティーを開催する。

しかし、見栄えは良い料理と出されたワインを飲んで、ワインの質が悪い事に気付いたのだ。


「かなり予算を削っているみたい。まだ周囲には知られていないけど、失策でかなりの借金でも作ったのかも知れないわね」


「前世では男爵令嬢に王子妃の予算を注ぎ込んでプレゼントを渡していたけど、王家自体が困窮しているという話は聞かなかったわよ?」


うーーーん?と考えてもわからないものはわからなかった。


「はぁ~、原因は自分自身なのに気付かないの?貴女が先に、王家が手に入れるはずの鉱山や、流行を先取りして、王家に入るはずの利益を掠め取ったからじゃないの」


「あっ!?」


ようやく自分が原因だとわかり、そうだったと理解した。


「もう、うっかりさんね」


クスクスと笑うシオンにイオンは頬を膨らませた。

楽しい時間を過ごしていると、セルシオ王子が会場の前に出てきた。


「シオン・ミネルバ公爵令嬢よ!前に出るがよいっ!」


ざわざわ

ざわざわ


何が始まるんだと周囲がざわめいた。


「はい、殿下。私はここに」


前に出て綺麗なカーテシーをして頭を下げた。


「シオン公爵令嬢よ!貴様の悪事を知った今、もう婚約を続けていく訳にはいかない!よって、貴様との婚約を破棄する!」


「まぁっ!それは本当ですか!?大変嬉しいですわ♪婚約破棄、しかと受けたまりました!」



えっ!?


会場の人々の心が1つになった瞬間だった。


「な、ななな!貴様、理解しているのか!婚約破棄だぞっ!」

「はい、心得ております。貴方のようなクズと結婚しなくて良いと思うと大変嬉しいですわ」


さっきと同じような事を言うシオンにセルシオ王子は顔を真っ赤にしながら怒った。



「巫山戯るなっ!貴様が下級貴族であるイオン男爵令嬢を虐めているという話を聞いている!この私も見ているのだ!認めるがいい!!!」


どうやらシオン令嬢を悪者にして自分の正当性を認めさせたいようだ。


「私がイオンを虐めるですって?『あり得ません』わ!」


自分自身ですもの。


「そんな訳ないだろう!権力を笠に着て、イオン令嬢を虐げていたではないか!?」


そこに当事者であるイオンが前に出てきた。


「失礼致します。それはセルシオ王子の勘違いでございます。私とシオン令嬢とは至って友好的な関係ですが?」


!?


「それは嘘であろう!いつも私がイオン令嬢に近づくとシオンは隠すように連れて行くではないか!私が近くにいると、虐めているのがバレるからそうしていたのであろう!イオン令嬢、安心して本当の事を話してくれ!」


イオンは悩む仕草で答えた。


「そ、それはシオン令嬢は、私を守ってくれていたのです。その………低い身分の私だと、セルシオ王子に迫られると断れないだろうと言って……………」


!?


明らかに動揺するセルシオ王子にシオンが答えた。


「学園でのセルシオ王子のイオン令嬢に対する好意は有名でした。イオン男爵令嬢から度々相談されていたのです。【婚約者】がいる身でセルシオ王子に迫られたらどうすればと………」



「わ、私は別に邪(よこしま)な気持ちで近づいていた訳ではない!それに私の新しい──うん?婚約者???」


イオンが言った不穏な言葉に気付き、あれっ?と言う顔をした。


「余り、私の愛しい婚約者を呼び捨てにしないで貰いたいな」


そう言って1人の男性が出てきた。


「お騒がせして申し訳ありません!カール様!」


「いや、構わないよ。こうしてイオン令嬢を私の婚約者だと、堂々と紹介できたからね」


二人は親しそうに腕を組んだ。


「おいっ!貴様!なにをしている!?イオンは私のものだ!」


セルシオ王子の言葉に、カールと呼ばれた男性は片脚を地面に叩き付けると大きな音と共に、地面が割れたのだった。


「ひっ!?」


驚き尻もちを付くセルシオ王子に低い声で言った。


「誰が誰のものだって?」


周囲が引くほどの殺気を放ちながらゴゴゴッと威圧が凄かった。


「もう一度言っておく。イオン・ルード男爵令嬢は、イスルギ帝国、第2皇子カール・イスルギの婚約者である!二度とイオンの事を呼び捨てにするなっ!」



ざわざわ

ざわざわ


「嘘でしょ!あの大国の皇子様が!?」

「どうして男爵令嬢なんかと…………」

「我が小国から皇子妃が!?」



初めて知った情報に、周囲の貴族達も騒ぎだした。


「…………そんなバカな」


ガックリと項垂れるセルシオ王子を置いておいて、周りの方々から質問責めになりました。


「実は、幼少の頃に父の商談にイスルギ帝国に行った事がありまして、そこで運命的な出会いを………ポッ」


顔を赤めている仕草は可愛らしかった。


「しかし、身分の差はどうなされるのですか?」


流石に男爵令嬢では王子の妃には不釣り合いである。


「それは大丈夫。私のミネルバ公爵家に養女として迎え入れてから、イスルギ帝国に嫁ぎますので」


「なるほど。それなら問題ありませんな!」


周りの貴族達も納得したように頷いた。


「まぁ、私としてはルード男爵令嬢のまま嫁いでくれても構わないのだがな?」


カール皇子の言葉に貴族から疑問の声が入った。


「いや、流石に家格が合いませぬ」


「なにを言っている。【聖女】の称号を持つものはイスルギ帝国では侯爵レベルで扱われるからだ」


!?


「「聖女」」



そう、この身体の持ち主は光属性を持っていた。

それを知っているイオンは、実家を前世の知識を使って富ませると同時に、修行して聖女の力を体得していたのだ。最初から力があるとわかれば容易かった。王家に対抗するために、他国に商談しに行く父親と一緒に同行し、イスルギ帝国に行った時、視察に出ている時に襲われて重傷を負ったカール皇子を助けた事で、交流ができた。本当の偶然ではあったが、何者かの思惑通りに事が進んでいった。


基本的にイオンの聖女の事は秘匿して、時期がきたら発表する手筈であった。


それは、言わなくても今回の騒動を見据えてのことであった。


「カール皇子!愚息が申し訳ございませんでした!」


静観していた国王がようやく謝罪に出てきた。

正直、困窮している王家で、ミネルバ公爵家との縁談を破談にされると、ますますマズイ事になるので、様子をみていた様だが、ちょっかいを掛けていた男爵令嬢がうちより大国の皇子と婚姻を結ぶことで、関税などの軽減など、国益を得ることができる。


逆にこれ以上問題が大きくなると、国自体が滅ぼされる可能性が出てきた為に、慌てて前に出てきたのだ。


「国王陛下、貴方は善政を敷く良き王だと認識している。我が愛しき婚約者の母国であり、国として援助も検討しているが、御子息の教育を間違えましたね」


「…………言い返す言葉もない。重ね重ね申し訳ありません。シオン公爵令嬢とイオン男爵令嬢も済まなかった」


国王は項垂れているセルシオ王子を、兵士に言って無理矢理、連行させた。


「それでシオン公爵令嬢はどうしたい?できる限り、望みを叶えよう」


国王は顔色がすぐれない様子ではあったが、ケジメを付ける為にも聞いたのだ。


「それでは恐れながら申し上げます。セルシオ王子との婚約は【白紙】とさせて頂きたいと思います」


婚約破棄より白紙とすれば傷が小さくなる。やはりと思い国王は再度、肩を落とした。



こうして前回の時間軸でのケリを着けたイオンは満面の笑みでシオンと喜び合うのだった。





───後日───




あれからイオンはルード男爵家の家族と共にイスルギ帝国へと渡った。


手広い商いを行っていたイオンの父はイスルギ帝国にも支店を置いていたので、生活基盤は整っていた。イスルギ帝国では、伯爵の爵位を賜り、その手腕を買われて、外交官の役職を得た。


忙しくも充実した毎日を送っているようだ。

母もその父を献身にサポートしている。


カール皇子は第2皇子のため、公爵位を賜りそれなりの領地を任されている。無論、イオンの母国に近い領地である。イオンも夫であるカール皇子の側で前世と今世の知識を上手く使い領地の発展に尽力している。



シオン公爵令嬢は、あれから面白い事になっていた。


セルシオ王子はあれから幽閉され、しばらくすると病死の発表があった。毒杯を賜ったのだろう。

それを聞いてもイオンは何も感じなかった。


国王陛下も責任を取って隠居する事になった。王妃も一緒にである。しかしすぐにではなかった。次の国王には、王弟の子息アーノルドと言う人物が国王に指名された。


指名したのはシオン令嬢だ。

正確にはミネルバ公爵家の総意でだ。


理由は、それなりに有能だが、気弱な性格だった所である。


そう、シオンは王妃教育を修了しているので、そのまま王妃の座が確定していた。


それなら裏から操り易い人物を夫に添えたいと思ったのだ。


すでに、困窮していた王家は潤沢な資金のあるミネルバ公爵家から多大な援助を受けて持ち直していた。イオンの知識から一部の事業を軌道に乗せていたのだ。イオンからの協力報酬でもあるのだが。



故に、王家はミネルバ公爵に頭が上がらない状態であり、実質的にミネルバ公爵が王国を動かす事になったのである。


『うふふふ♪これはこれでありですわね。表に傀儡を立たせて裏で操る。ゾクゾクしますわ!』


シオンの知られざる性癖の発見である。

まぁ、どうでもいいのだが。



「あの子、イオンは…………もう一人の私は上手くやっているかしら?」


シオンは窓から遠い帝国の方を見て呟いた。



それからしばらくして、子供を授かったと言う手紙が届き、幸せに暮らしていると、惚気けた分厚い手紙をげんなりしながら読む事になるのだった。




【FIN】




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