果たて

Accolade

稿

味気ない水彩のゆめに嫌気がさして家を飛び出した。


眠気の端から端をほんのりゆれる振り子。そんな心地で注ぐホットミルク。


いつもさめるまで待っていた。指先の冷えは解れても、唇をきゅ、と結んだまま。


かわいらしいフェアリ。ねむったあとは母のため息。




クローゼットがエレベーターなら、迷わず空の階を押しただろう。


窓辺に橋が浮いていたら、肌寒くても渡っただろう。寝覚める途方へ、ぎこちなくも。


筆ではらった淡い雲。はるか頭上をゆく、色とりどりの風船はどれも灰の混じる思い出だった。


しおらしいフェアリ。いっそ撃ち落としてしまいたい。




巷で話題のカフェ、無慈悲にも”Closed”と告げられた肩はずん、と落ちる。


小刻みにぼやけるテールランプを追って、いつしか浜辺が迎えてくれた。


さざなみの淵は炭酸みたく弾けない。なんだか、泡沫ということばを思い浮かべたけれど。


惑うほしのフェアリ。踵は背伸びに欠かせない。




とおいとおいへやのなか。いまはおぼろげな母の寝顔。


遠のいてやがて無いものになる、その毒々しさもわすれていた。


伏し目がちな理由は、みつめると目がまわるから。


こころないフェアリ。ひとり涙にうずくまっていた。

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果たて Accolade @N0_Sp_ring

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