3
友人に勧められていた、静かだと噂の図書室に足を運んだ。授業が終わって即来たはずだが、既に先客がいた。先客といっても図書室の隅で数人の生徒がパチン、と音を立てながら将棋をやっているのと、図書委員が本を読んでいるくらいだが。図書室は学校の端にあるため、放課後の喧騒も少し聞こえるくらいでむしろ完全な静寂ではない分心地がいい。
将棋部とは離れたところに席を決め、荷物を隣の席に置く。はじめる前に小包装になっているチョコレートをひとつつまみ、勉強道具を広げた。私が友人から借りたノートを元に勉強を進めていると一人、カチャと音を立て入ってくる。彼女だ。私は特に気にせず勉強を続けていると私に気づいたのか、小走りで駆け寄ってきた。
「いた! 一緒に行ってくれてもいいのに」
私は気にせずノートをとる。友人のノートはとても綺麗に要点をまとめられていて、添えられてる一言がとてもわかりやすい解説になっている。
「うわー何やってるのかさっぱりわかんないや」
私が特進に入れたのもひとえに友人のおかげといっても過言ではないだろう。
「高校の図書室って色んな本があるのね。中学の図書室は古い本しかなかったわよね」
私は一言も返してないのに、永遠と話し続ける彼女。独り言もここまでくるとある種のすごさを感じる。
彼女のマシンガントークも私が机に広げていたものの中のひとつに気を取られたのか、1拍おいて
「あ、チョコレート。一個もらっていい?」
などとふざけたことをいい、手を伸ばしてきた彼女の手首を掴む。本日初めての彼女へのアクションだった。
「どっかいって」
それだけ言い捨て彼女の手首を離した。ついでにチョコレートも一つ口に入れる。彼女が何かを言ってた気がしたが、全く耳に入らなかった。
それからは彼女はウロチョロしていたようだが、たまに何かを言ってるくらいで執拗に話してきたりはしなかった。
一通り友人のノートをとり終え、ふぅと一息つく。時計を見ると二時間半ほど経っていた。こういう時の時間はあっという間だなと感じる。気づけば用意していたチョコレートもなくなっていた。
そろそろ帰るか、という時に図書室に誰か入ってくる。友人だった。部活が終わったのだろう。手を振ってこっちにくる友人に、私も手を振り返す。
「ほまちゃん、部活お疲れ様」
「ありがとう。ヒロもお疲れ様、ノートどうだった?」
「すごくわかりやすかったよ、いつもありがとうね」
そういって友人のノートと一緒に、友人用に用意しておいたお礼のお菓子を添えて返した。そうするといつも友人は嬉しそうに頬を染めて受け取ってくれる。きっとお菓子が好きなのだろう。
「いつもありがとう。また明日も来るんでしょ?」
「そのつもりだよ」
「そっか。ねぇ、明日終わったら一緒に晩御飯食べない?」
友人は私があげたチョコレートをつまみながら、なんのけなしにいう。
「あーごめん、先約があってさー」
「先約? 有咲? クラスの子?」
「違う違う。彼女だよ」
そういって、図書室のどこかにいる彼女を探す。そうすると将棋部の一人と談笑しているみたいだ。話してる席の近くに将棋盤が置いてある。
友人も彼女の姿を見つけたようで怪訝な顔を浮かべている。
「最近ほんと仲良いんだね」
「まあねー」
えへへ、と笑ってみせると尚更納得がいってなさそうな顔をする。
「あたしも一緒に行っちゃダメ?」
恐らくお互い快く思ってない関係だろうに、なぜだろうか。
「うーん、彼女二人で相談したいことあるっていってたから、ごめんね?」
「……わかった。今度ヒロが空いてる時教えて欲しいな」
「おっけー! いけるとき連絡するね」
そろそろはぐらかすのも難しそうだ。本腰をいれて友人とご飯を食べる機会を設けなくては。
なんて考えていると友人がぽつりを言葉を漏らす。
「なんか最近、ヒロとあんまり一緒に過ごせてない気がする」
「そう? 教室とかだと一緒でしょ?」
「そうじゃなくて! 高校始まったらお昼ご飯とか一緒に食べれると思ったのに、昼休み始まったらいつもすぐどっかいっちゃうじゃん?」
「あー……実は校内探索してるんだ!」
「もう入学してから結構経つけど?」
友人ってこんなにめんどうくさかったっけ、と思うような態度を珍しくとってくる。友人とはお互い踏み込んではいけない、微妙な境界線が暗黙のルールであったと思っていたのは自分だけだったのだろうか。
「この高校広いから、ついつい、ね。次から一緒に食べよ」
「うん! 絶対、約束だからね!」
だが世話になってる友人の頼みの一つくらい、聞かなきゃね。私は友人には数えきれないくらいの恩があるのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます