あれから特に何事もなく一週間が経った。私と彼女は頻繁に会ったりするわけではなく、ただ校門から私の家までちょっとした話をして別れる、という程度の関係に収まっている。だがその間恋人として濃厚な時間を過ごしているか、と聞かれれば答えはノーだし、それこそ、まだ同じクラスの人のほうが話しているのではないだろうかとも思う。下校の時間以外だと例えば教科書を忘れたとしても、特進科と普通科では教科書が違う。だから貸し借りとかもない。おまけに特進と普通ではなんだか高い壁があるみたいで、基本交流していない。交流があるのは部活動くらいではないだろうか?

 そう思って、弓道部に入ったといっていた友人に、少し話を聞くと特進で部活にはいる人は少ないらしく物珍しい顔で見られたそうだ。特進の人間は塾通いが多い。

 かくいう私は塾には通っていないが。

 一日の授業が終わり、安定となりつつ帰路につく私たち。彼女はどこにそんな話題の引き出しがあるのだろうと羨ましくなるくらい一方的にしゃべるので、基本私は聞き専。だけども、今日は彼女に伝えなければならないことがある。


「あのさ」


「うん?!なになに?」


 私から話題を振ってもらえて嬉しいのか、彼女は犬だったら尻尾がフリフリしてるんだろうなあくらいの勢いで食いついてくる。だけど、伝えたいことはあまりいい報せではない。


「来週からテストあるから、しばらく一緒に帰れない」


「え? 定期テストはまだ先でしょ?」


「違う違う。確認テストみたいなの」


「そっか、特進だもんね」


 ごめんね、と一言謝る。


「邪魔しないから一緒にいたらダメ?」


「邪魔する気しか感じないんだけど」


 そんなことない、と彼女は不満げだ。


「どこで勉強するの?」


「図書室」


「と、トショシツ?」


 友人に聞いたのだが、図書室は将棋部が部活をしてるくらいですごく静かで穴場スポットらしい。喫茶店にいったり、図書館にいったりは遠いので手間もかかるが、学校の中なら近場だし楽だ。問題はテスト前だから私と同じで特進の人達がここぞと押し寄せていないか、という点だが。

 彼女と話していてわかったことの一つなのだが、勉強は苦手らしい。


「うん。まぁ待ってるなら本でも読んでてもいいかもね」


 彼女から本の話は聞いたことはないが、多種多様の本が置いてある図書室だ。多少は暇が潰せるのではないだろうか。


「活字はあんまり得意じゃなくて」


「じゃあ帰ったら?」


「いや、それは……わかったわ」


 どうやら帰ることにしたらしい。


「本読んで待ってる」


 待つことにしたらしい。

 で、でもと彼女は言葉を繋ぐ。


「ちょっとくらい勉強教えてくれたり……?」


「教えられるほど頭良くないよ」


 バッサリ代替案を切る。実際無理だ。


「ごめん、確認テスト乗り切ったら時間作るからさ」


「ほ、本当?!休日もいいの?!」


「うー、うん。お昼すぎからなら」


「嬉しい、やだどうしよう……」


 どこいこう、なにしようと今から妄想をしてるっぽい彼女。まだ先の話なのに気が早くないだろうか。私はあはは、と困り顔で笑うしかない。

 どうも彼女は妄想癖があるらしい。


「というわけで」


「おとなしく待ってます!」


 私がいうより先に彼女はびしっと敬礼をする。なんとなくだけど、未来が見えた気がする。よくない未来が。

 不吉な未来を想像していると彼女がそういえば、と何かを思い出したようだ。


「あ、それでなんだけど……」


「どうかした?」


「うーんと、デ……い、一緒に出掛けるなら、連絡先、交換しましょ?」


「うん、いいよ」


 そういえば連絡先、交換してなかったな。

 携帯を取り出し、私たちはお互いの連絡先を交換した。メッセージアプリでよろしくと可愛らしいスタンプが送られてくる。

 ちょうどタイミングよく、私の家の前についた。彼女は毎日こりもせず名残惜しげな表情でまたね、と帰路についている。今日も疲れた。

 携帯がブーブーなっているのを無視して、私はなんとか着替えてベッドに倒れこむ。気づかぬうちに微睡みに落ちていった。

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