第6話 1度目のピンチ:起死回生のコストコパーティー

施設開所から、半年経った頃のことだ。事業所の経営は危機的状況だった。登録している利用者さんは、10名。その10人も毎日通所してくるわけじゃない。会社の口座の残高は8万円。正直、やばかった。完全にピンチだった。


その時、僕は、コストコパーティーを開いた。前日に、コストコで、これでもかとピザやらチキンやら、サラダ巻きやらスイーツやらを買い込んだ。


結果、所属していた利用者さんのほぼ全員に当たる10名が参加してくれた。そして、パーティーをきっかけに、翌日から通所してくれる人が増えた。

事業所は、なんとか持ち堪え、息を吹き返した。


ただ、コストコパーティーを開催する時、僕は悩んだ。


「今まで、利用者さん同士、交流は、トラブルになるから、私語は極力しないって方針でやってきたのに、いきなりパーティー?でも、他所の事業所では、そういうのやってるしなぁ」


僕は、他の事業所をバリバリに意識していて悩んでいた。僕は、WEB制作会社をやめ、B型作業所を起業する以前、事前準備としてB型作業所に勤めていた。どこの事業所でもそうなのだが、そこの事業所でも、利用者さん同士の人間関係のトラブルが多かった。だから、自分がB型作業所を作るときは、他の事業所の弱点を克服したいい事業所、他とは違う利用者さんにとっていい事業所を作りたい。その思いが強かった。だから、どうあるのが、利用者さんにとってベストなのか悩んでいた。


でも、シンプルに考えることにした。


「利用者さんが喜んでくれるなら、まいっか♪」


結果、コストコパーティーは利用者さんにすごく喜ばれた。そして、それ以降、一人当たりの通所日数が増えた。結果オーライだ。だけど、僕はそれ以降同じようなイベントはしなかった。その代わり、クリスマスなどイベント時の特別メニューで利用者さんに還元することにした。


このように、僕自身、事業所開設当初は、悩んでもいたし、矛盾を抱えていた。それが、事業所の運営にも現れていた。


現在、うちの事業所は所属している利用者さんは40名、1日の利用者は定員いっぱいの20名。資金も潤沢だが、当時は、風前の灯火だった。


当時何が問題だったのか。

まず、自分の事業所のカラー特色が固まっていなかった。

僕自身に迷いがあった。


開業当初は、「極力業務とは関係ない会話は控えましょう」という張り紙までしていた。また、現在は、一人一人、仕切りのついた自習室のような雰囲気だが、当時は、フラットなテーブルにノートパソコンを置いて、利用者さん同士が顔を合わせる配置だった。


そのような配置にして、利用者さん同士、FACE TO FACEなのに、会話をするなという矛盾に気づき、机やノートパソコンはジモティーで売り払い、今の個別ブースに分かれた自習室スタイルに変えた。現在は、自習室スタイルなので、スタッフが誘導しなくても、皆、机に向かって、自己研鑽に励んでおり、利用者さん同士の僕語は、ほとんどない。休憩時間に、飲み物やお菓子のある冷蔵庫の前で顔を合わせれば、軽く挨拶したり、雑談する人がわずかにいる程度だ。


そうやって、迷ったり悩んだりしながら、今、ちょうどいい塩梅のところを見つけたことにより、いつも定員いっぱいの事業所を作り上げることができたのだと思う。


そして、開設当初より、常に念頭に置いているのは「利用者さんにとってどうするのが良いか」という問いである。


あの時、経営が苦しいからと、冷暖房や食事をケチって、利用者さんに不便を強いていたら、今うちの事業所はない。苦しい時こそ、「利用者さんにとってどうするのが良いか」という問いを忘れてはいけない。今もこれは心に刻まれている。

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