第22話 次元斬り vs 破岩剣

 上半身を起こしたギュンターは、憤怒したまま、俺を糾弾する。


「グッ! 口上をしているときに踏み込んでくるとは、この卑怯者め!!」


 剣先を向けて牽制けんせいしようとするも、右手が軽いことで、思わず見る。


 さっきの衝撃で、ロングソードはすっぽ抜けた後。


 そのまま立ち上がろうとしたので、前へ踏み込みつつ、下からあごを蹴り上げる。


「ボゲッ!」


 顎が跳ね上がり、面白い叫びを上げるギュンター。


 ここで、慌てた司会がアナウンス。


『え、えー! 双方の準備が整っていない状態での攻撃は、違反です! ただちに――』

「何を言っているんだよ、お前!」

「こいつが馬鹿なだけ! 邪魔すんな!」

「始めるって宣言したのは、てめーだろうが!?」


 高慢な貴族がボコボコにされている、最高のショーを邪魔されたことで、群衆が殺気立った。


『あ、あの……。い、一度、仕切り直したうえで、再開いたしますから……』


「ブーブー!」

「ブーブー!」

「そんなに言うんだったら、お前が下で戦えよ!」


 困り果てた司会は、貴族がいるバルコニーのほうを見上げた。



 領主のご令嬢であるエルザ・ド・ペルティエは、我関せず。


 近くの友人と話す。



 俺は、地面に座り込んだままのギュンターを見たまま、摺り足で下がった。


 それを見た司会が、ホッとしたように告げる。


『では! ギュンター様がソードをお持ちになられて、構えた時点で、決闘の再開です!!』



 地面に落ちていたロングソードを拾ったギュンターは、再び口上を始める。


 どうしても、それをやりたいんだな……。


 懲りずに、青白い剣身のロングソードを掲げたギュンターが、朗々と語り出す。


「見よ! これは、ランストック伯爵家に代々伝わる魔剣だ! 次期当主たる私だけが扱える、悪を切り裂く剣である!!」



 ――物質の解析を開始……


 ――永続的な魔法付与、『物質の硬化』を確認



 青白い光がミステリアスでも、切れ味が鋭いだけ……。


 お? 

 対アンデッドの特効もあるな!



 得意げに語ったギュンターは、両手で構える。


 勇ましい声を上げ、走りつつの大振り。


 風切音はあるが、分かりやすいため、どれもかわしていく。


 左腕に括り付けたウッドシールドで受ければ、奴は驚愕した。


 ギィンッと剣先から滑っていき、外側に逸らしたついでに、踏み込みからの当て身。

 右肘が食い込んだギュンターは、情けない声を上げつつ、後ろへ吹っ飛んだ。


 かろうじて踏ん張り、尻もちをつくことを避ける。


 俺が追撃しなかったおかげだ。


「き、貴様っ! そのウッドシールドは、何だ!?」


 ギュンターが震える声で叫ぶも、答える義務はない。


 魔法で表面を強化したことで、その魔剣ぐらい、寄せ付けないことは……。



 無言で右手を動かし、左腰に吊るしているさやから、ロングソードを抜く。

 ギキイッと甲高い音がしたものの、前よりはスムーズに動いた。


 俺が抜いたことで、高い場所で見物しているギャラリーが沸き立つ。

 赤茶けた剣身は、遠くから判別できず。


 ――剣の表面に、不可視の次元ブレードを形成


 その魔法によって、俺が持つロングソードから、キュアァアアッと、耳障りな音が発生する。


 正面から向かい合うギュンターは、顔をしかめるも、剣術の型通りに攻めてきた。


 左、右、下から斬り上げ。


 綺麗だが、単純すぎる。

 余裕を持って躱すか、右手のロングソードか、左腕のシールドで逸らした。


 そろそろ、終わらせるか……。



 邪魔だから、左腕のバンドを外して、ウッドシールドを地面に落とす。


 両手でつかを握り直し、一撃必殺の雰囲気へ。


 それを見たギュンターは、ニヤリと笑った。


「ほう? 理解したようだな……。しかし、無意味だ! この魔剣ディザスターと私の剣術にかかれば、一刀両断!! 次が、お前の最期だと思え! ……破岩剣はがんけん!!」


 叫んだ奴は、ロングソードを立てたまま、真っ正面から突っ込んできた。


「ハアァアアッ!」


 裂帛の気合いと共に近づいたから、こちらも足元に加速のベクトル床を出現させ、自動的に移動する。


 すれ違いざまに、奴の魔剣と交差するよう、振り抜きながら……。



 片足で円を描きつつ、後ろを振り向けば、少し戸惑った様子のギュンターが魔剣を構え直していた。


「やるな? だが、何度も私の破岩剣を躱せるとは……」


 違和感を覚えたらしく、奴は自分のロングソードを見た。


 しかし、俺が斬り飛ばしたことで、中ほどから消失している。


「な、ななな!?」


 焦ったギュンターは、きょろきょろと、失われた宝を探す。


 飛んでいった剣身は、コロシアムの壁にぶつかり、そのまま地面に落ちている。

 いちいち教えてやる義理はないし、この場で修繕させる気もない。



 気づけば、観客たちが大笑いだ。


 そりゃ、最高に笑える演出だよ。

 家宝の魔剣を折られた、本人を除いて……。


 ほら、みんな砕顔はがんしたぞ?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る