剣と弓の世界で俺だけ魔法を使える~最強ゆえに余裕がある追放生活~

初雪空

第1話 俺はハウマッチ?

 この世に出たことがない、貴重な金属がありました。

 精錬をすれば、伝説の武具も作れます。


 あなたは運よく、その金属を入手!

 喜び勇んで、店に売りに行ったら、どれぐらいのお金に?



 答えは、ゼロで――す!


 それどころか、引き取って欲しければ処分する費用を払え、ときたもんだ!



 え?


 おかしい?


 いやいや、当たり前でしょうが!



 だって、世に出たことがないんだよ?


 市場で評価されていないゴミは、買い取れないって!




 このエピソードは、そのまま、俺にも当てはまる。


 なぜなら、この世界で唯一の魔法使いだから……。


 たぶんな?




 回想をやめた俺は、弾き飛ばされたロングソードを眺める。


 それはクルクルと回りつつ、ドスッと突き刺さった。



「勝負あり! ……失望したぞ、ジン」



 決闘の立ち合い人である、ランストック伯爵家の当主であるパウル―俺の父親――が、冷たい視線を向けた。


 いっぽう、俺にロングソードを突きつけている兄、ギュンターは、得意げに見下ろしている。



 その間にも、父親が宣言する。


「お前のようなレベル1の弱者は、我がランストック伯爵家に不要だ! せっかく保護したのだからと面倒を見てきたのは、間違いであった!! とはいえ、『これまでの費用を返せ』とは言わぬ……。養子縁組を解消するから、すぐに屋敷から立ち退け! 手続きが完了するまで、数日かかる。それまでの衣食住は提供してやろう。そこからは、二度とこの屋敷の敷居を跨がせぬ! この領地からも出て行ってもらうぞ? お前が残っていては、我が家の評判を落とすのでな……。希望先があれば、そこまでの旅費を払ってやろう。貴様も16歳だ! 『まだ養ってくれ』とは言わぬよな?」


 私有財産はないから、返すもへったくれもない。

 奴隷にして売り飛ばすか扱き使おうにも、レベル1では無意味。

 それに、ランストック伯爵家の人間だったわけで、外聞も悪い。


 前向きな消去法で、金がないからと言い訳させず、遠くへ放り出すと……。



 地面に座り込んだまま、俺は告げる。


「むろん、自立します! これまで育てていただき、ありがとうございました」


「ふんっ! まあ、いい……。先ほど言った通り、数日は面倒を見てやる! ランストック伯爵である私とは、もはや口を利ける身分ではないと弁えろよ? 別れの挨拶もいらぬ」


 背を向けた、元父親。


 兄のギュンターも、ロングソードを収めつつ、捨て台詞。


「ではな! レベル10の私と戦えたこと、せいぜい感謝しろ! 貴様には、斬り捨ててやる価値もない」



 集まっていた騎士や召使いも、潮が引くように去っていく。


 俺のほうをチラチラと見ながら……。


 追放が決まった奴に関われば、自分も当主の怒りに触れるよな?




 ――翌日


 最後に殊勝な態度をとったのが功を奏したのか嫌がらせはなく、街でアイテムや装備を買っていたら締め出された、というオチもなかった。


 手持ちの金はなく、全てツケだ。

 それぐらい、ランストック伯爵家で払え!


 買い物をしたら、向こうが勘違いしただけ……。


 逆に言えば、ランストック伯爵家は緘口令を敷いている。


 俺1人と見て、ここぞとばかりに高い品物を勧められた。

 けれど、根なし草が持っていれば、すぐに襲われる。


 頑丈な鉄鍋や水筒。

 他と比べて目立たない、使い古しの服。


 伯爵家に運んでおくと言われたが、慌てて否定。


 それでは、絶対に俺のところへ届かない。



 両手に抱え、背中にも大荷物。

 何をしているのか知ったはずだが、特にお咎めなし。

 間違いなく、ランストック伯爵に報告されたはず。


 裏を返せば、旅に出る支度だったら、大目に見よう。


 こういうのは、面と向かって尋ねれば、逆に拒絶される。

 メンツがあるからな?


 失敗したら、その時だ。

 仕切っている家令で、報告が止められた可能性もあるが…。


 

 比較的仲が良かった、あるいは同情した召使いは、寄付のように小銭の袋を投げ込むか、まだ使える旅道具を置いてくれた。


 直接は会わないけど。




 ――数日後


 ランストック伯爵家の領地からブレニッケへ向かう馬車に乗り込んだ。

 乗り合いで、長椅子になっている部分には、向かい合うように乗客が並ぶ。


 俺の顔を知っている連中は、チラチラと見ては、ひそひそと噂話。


 まだ事情は広まっていないようで、不思議がっている感じ。

 いずれ、俺が追放されたことは周知の事実になるだろう。

 人の口に戸は立てられぬ。


 ここが領地のランストック伯爵家は、その前に遠くへ放り出したい。

 野垂れ死ぬか、丁稚奉公をするにせよ、無関係でありたいわけで……。


 俺の旅支度のツケも、その必要経費ってわけだ!


 連中が支払いを求めるのは、しばらく経ってから。

 あるいは、そんなもの知らぬ! と泣き寝入りさせる気かも?


 立ち去る俺には、どっちでも関係ないが……。



「絶対に、ブレニッケで一旗揚げるぜ!」

「頑張ろうな?」


 俺と同じぐらいの男たちが、彼らなりに奮発したであろう武具に身を固め、鼓舞し合っている。


 レベル2~3かな?


 初々しいものだ。


 聞いた話では、ブレニッケは大きなダンジョンを抱えていて、様々な場所から冒険者が集まってくる。


 その死亡率は高く、危険なモンスターや仕掛けがいっぱい。

 手に入れれば、一気に立場を上げられるアイテム、財宝も……。


 よく考えてみれば、誰がセッティングしているのやら。

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