噂のお店

第1話 赤い鳥居

月曜日。学生にはつらい日だ。週末はゲームに費やすと決めている俺は、今日も今日とて寝不足である。


更に夏であることも合わさって炎天下ときた。学校までが遠かった。すごく。



「おはよ、海里かいり。」


「…おはよ…」



 俺とは違い月曜日だというのに朝から元気そうにしているこいつははる。クラスメイトだ。中学からの付き合いで、結構気のいいやつである。


「めっちゃ眠そうじゃん。また徹夜でゲームしてたのか?」


「うん…悔いは無し…」


「じゃあいいのか…?てかその傷どうしたんだ?なんか引っ掻かれてね?」


「あぁ…近所の猫にやられた…」


「まじかよ。お前猫に好かれるたちなのに珍しいな。」


「ちょっとショック…」


「おつかれ。…なぁ、俺の目が確かなら黒板に週末課題って書いてあるんだけどさ、」


「あぁ、…あったよ課題。しかも数学だから、絶対当てられるやつ。」


「今日の日付俺の出席番号なんだけど。」


「どんまい。ノート貸すから頑張れ。」



 はじめより若干テンション低めで晴は自分の席に帰っていた。

 指摘された引っかき傷を触る。漫画のように思いっきり顔にガリッとされてしまった傷は、案外目立つらしい。


「…眠い…」


 俺の意識はHRまで睡魔に乗っ取られていた。




「俺、猫になんかしたんかな…」


 一番初めに猫に引っ掻かれてはや数日。引っかき傷は治るどころか増えていた。


 前は近所の猫達に懐かれていたのに、今では威嚇され、挙句の果てには引っ掻かれ。元々懐かれていたが故に悲しさは倍増するし、俺は犬より猫派だから、癒やしが足りない…



「なんで嫌われてるかは知らんけど、嫌われてるのに構いに行くから傷は増えるんじゃねぇの?」


「癒やしが足んないの。ゲームのストレスを癒やしてくれる2つの方法のうちの1つだったのに…」


「もう1つの方法は?」


「…ゲーム。」


「…もうなんて言っていいか分かんないわ。」



 めちゃくちゃ呆れた顔で見られた。ゲームのストレス云々はさておき、本当に原因がわからないのだ。ある日を境に猫にだけ嫌われる。あんなに寄ってきてくれたのに、ここまでくるともはや不気味だ。



「1回他のこと考えようぜ。…えーっと…あ!今週末に行こうって言ってた肝試しの話!」


「えぇほんとに行くのかよ…俺怖いの無理なんだけど。」



 晴は肝試しが好きで、よく連れてかれるのだ。俺怖いの苦手なんだけどなぁ…



「怖くないやつだって。なんか妹が話してた神社に行けたら行きたいなって思って。」


「神社?そんなのあるっけ。」


「それがさ、妹が話してたんだけど…」



 晴の話を要約するとこうだった。

 隣町の茜町あかねまちの路地を、夕方に歩いていくと赤い鳥居があるんだとか。しかも、誰にでも見つけられるわけではないらしい。


 その鳥居を見つけられる人の条件は誰も知らないが、もし見つけられたなら…



「もったいぶってないで続き早く」


「えーっと…確かその鳥居の先は神社で、その先にお店があるらしい。」


「お店?」


「うん。でも行くには更になにかしないといけないらしい。…何だったっけなぁ…」



 というかそれは怖い話ではない気がする。いや、怖くないだけましか…連れてかれるのは確定っぽいし。



「ふーん…まぁいいや。見つけられるとも限らないし。見つけられたら教えてよ。」


「おーけー。じゃあ土曜日の夕方に行こうな。」


「あぁ。」


 


 土曜日の夕方。俺と晴は茜町にやって来ていた。


「路地ってどこの路地ー?」


「なんかどこでもいいらしいぜ。」


「それはそれでどうなんだ…」


 適当に奥まで続いてそうな路地に入る。夕方にとのことだったので、時間は少し遅い。



「まぁ適当に歩いて、なかったら帰ろう。俺はこっち見てくるから、海里はそっちな。」


「わかった。30分後に集合で。」


「見つかったら教えろよ。」


「はいはい。」



 まぁ、本当に見つかるわけもないので、適当に歩いて帰ろう。


 晴と分かれた道から、大きい道路ではなくなるべく奥へ奥へ入っていく。


 夏の夕方とはいえ、こうも家が密集していると影になって視界は少し薄暗い。


 烏の鳴く声と家からの生活音を聞きながら、奥へ奥へ入っていく。


 そろそろ15分経ったかな、とスマホを見ようとした時、視界の端に赤が見えた。



「…は?」



 視線の先の赤へ歩く。それは明らかに人工的な色で、密集した住宅の中で少し浮いていた。



「うそだろ…」



 目の前には、言い逃れができないぐらい噂道理の鳥居が立っていた。

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