少女高専/Shoujo Kousen

喪山イズラ

#0「入試面接だ。」

 私の名前は開之青海あくのあおみ。『少女高専』の入試面接を受けに来た、15歳の女子中学生。

 ここには、面接で受かるだけで入学できるそうだ。これほど条件の良い学校はない。気がかりなことはあるものの……。

「次の方ー」

 冷めきった声で呼び出されたため、こちらも「はーい」と冷めた返事を返す。




 試験は一対一で、面接官はスーツの女性だった。

「ではまず、そちらの机に置かれた”ナイフ”を手に取ってください」

 まるで意味が分からない。そのまま伝えたものの、相手は首を傾げていた。

 繰り返し言っても、面接官は無視して続けた。

弊校へいこうで行う面接内容は、すでにご存知だと思います。それでは早速、どうぞ」

 何も聞いていない、何も分からない。必死に訴えると、面接官は「はい?」という表情で私を数秒間見つめ、やがて口を開いた。

「そのナイフで、”貴方の”体のどこかの部位を切断してください。切断部位・体積が一定のラインに達するかどうかが、合格基準となります。手早くお願い致します。……どうか、なさいましたか」

 次の瞬間には、私は席を立ち、教室のドアへと走り出していた。

「お待ちください、面接は終わっておりません――――」

 階段の踊り場まで降りた頃には、女の声は聞こえなくなっていた。

 ここから逃げなければ。強い生存本能だけが、私を動かしていた。

 背後から、”何か”が追ってきていたから。

「 「 わ――し、あ――つと――もだちに――――――い―― 」 」

「 「 ――こがい――――だ、あ――らかに――タレだ―― 」 」

「 「 ――お――い――ど――――こ――に―――い―――く――? 」 」

 両手で耳を塞ぎながら、死にもの狂いで階段を駆け下りて駆け下りて――。


 

 









 あの日から、ずっと怯えて暮らしていた。

 あの空間の異質さは、五感全部が捉えていたはずなのに。

 逃げているときも、無数の怪物が私を見ていた。見ていたのだ。




 あの後、すぐに家を出た。両親は何も言わなくなって、ただゴミのような目をしていた。

 後悔などしていない。あんな異常な人間たちを生かしておいたら、いつか、きっと殺されていただろう。いや、ゼッタイに殺されていた。

 私はこれから、新たな人生を歩んで行く。

 どこかで働いたりなんかしない。絶対に、そんなことはしない。

 なぜかって――――。




 私はキャリーバッグを引き、あの校舎の前に立っていた。

 前に会った”怪物”は、私に気がついたようだ。







 ―続―

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少女高専/Shoujo Kousen 喪山イズラ @izura

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