野外研修②

 キョロキョロと辺りを見回し、私は必死に目を凝らした。

が、急に腕を引っ張られる。


「ベアトリスお嬢様、お下がりください!」


「こんなのどう考えても、異常です!」


「絶対に私達の傍から、離れないでください!」


 サンクチュエール騎士団の方々は葉っぱを攻撃と捉えたのか、思い切り身構える。

『早く撤退を……!』と焦る彼らの前で、父は私の頭に載った葉っぱを取り払った。


「大丈夫だ。あちらに敵意はない。恐らく、ちょっとしたイタズラのつもりなんだろう」


 『放っておけ』と告げる父は、おもむろに後ろを振り返る。


「イージス」


「はい!」


「精霊はどこに居る?」


「分かりません!精霊に会ったことないので!」


 清々しいほどの即答に、父は少し考え込むような動作を見せた。

かと思えば、葉っぱを一つ手に持った。


「じゃあ、質問を変える。この葉っぱに含まれる力を一番感じる場所は、どこだ?」


「あっ、それならあちらです!」


 ここから見える一番太い枝を指さし、イージス卿は『アレが精霊ですか!』とワクワクする。

相変わらずの勘の良さを発揮する彼の前で、父は少し身を屈めた。


「ベアトリス、あそこに向かって話しかけてみなさい」


「えっ?でも……姿を見せないということは、あちらに対話する気ないのでは?」


「それはやってみないと、分からない」


 『やる前から諦めてどうする』と主張する父に、グランツ殿下も同調した。


「第一、姿を見せない理由が『会話したくないから』とは限らないだろう?ただの人見知りかもしれないし」


「てか、本気で接触する気がないなら葉っぱを降らせて、気を引くような真似はしねぇーだろ」


 『あれは完全にカマチョだ』と明言するルカに、私は少しだけ頬を緩める。


 ルカ達がそう言うなら……頑張ってみようかな。


 ギュッと胸元を握り締め、私はイージス卿の示した場所へ視線を向けた。


「ぁ……えっと、私はベアトリス・レーツェル・バレンシュタインと言います。今日は精霊に会いたくて、ここまで来ました。良ければ、その……姿を見せてくれませんか?」

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