野外研修①
「降りるぞ」
山に続く森を見据え、父は『ここから歩きだ』と告げた。
────と、ここでイージス卿が率先して馬車を降りる。
周辺の様子を確認してからこちらに向き直り、『どうぞ』と促した。
それを合図に、父やグランツ殿下も地上へ降り立つ。
私は一体、いつまでお父様に抱っこされていればいいのかしら?
『ちゃんと歩けるんだけど……』と思案していると、護衛のサンクチュエール騎士団が駆け寄ってきた。
騎士の礼を取って挨拶する彼らは、いそいそと陣形を整える。
「公爵様のご命令通り、下調べはしっかり行いました。安全なルートも確保済みです」
「よくやった」
珍しく手放しで褒め称え、父はニンフ山を見上げる。
「何人か、馬車の警備に残して山へ入るぞ」
「「はっ」」
即座に応じる姿勢を見せたサンクチュエール騎士団に、父は小さく頷き歩き出す。
抱っこしたまま行く気なのか、その足取りに迷いはなかった。
「公爵様は相変わらず、過保護だな」
ゲンナリした様子で父を見つめ、ルカは『ったく、立派な親バカになりやがって』と零す。
すっかり呆れ返っている彼を他所に、私達一行は森の中へ入った。
「まずはここから一番近い大木の元へ行きましょう」
「ああ、案内は任せる」
「畏まりました」
そう言うが早いか、サンクチュエール騎士団の団長フィリップ・アーロン・ヒックス卿は先頭へ躍り出た。
『こちらです』と促す彼に、父達は黙ってついて行く。
すると、直ぐに────美しい緑を纏う大木が見えてきた。
す、凄く大きい……正直、ここまでとは思ってなかったわ。
屋敷より巨大な木を前に、私は目を白黒させる。
「ここに精霊が……」
「ああ、恐らくな」
大木の前で足を止め、父はゆっくり私を下ろす。
そして、地に足をつけた瞬間────大量の葉っぱが降ってきた。
それも、私目掛けて。
「うわっ……!?」
あっという間に葉っぱまみれになった私は、『何!?』と困惑する。
でも、おかげで精霊の存在を確信出来た。
だって、こんなことが出来るのは自然の管理者だけだから。
まだ姿は見えないけど、どこかに居る筈……!
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