協力者の正体①

 何とも言えない心境に陥りつつ、私はゆっくりと顔を上げる。


「あっ、えっと……恋とかは全然……ただ、その……馬車を手配したのに、第二皇子がなかなか帰ってくれなくて……ずっとハラハラしていました」


「あー……確かにしつこかったですね。お嬢様に是非お礼を言わせてほしいって、何度も食い下がってきて……もしかしたら、お嬢様に惚れているのかもしれませんね。な〜んて、冗談……」


『────直ぐに帰る』


 ユリウスの発言に思うところがあったのか、父は食い気味に答えた。

『えっ?』と声を上げる私達の前で、彼は後ろを振り返る。


『今すぐ、帰り支度を始めろ』


『えっ!?ですが、まだ魔物の討伐が……』


『それは私の方でどうにかする。とにかく、今日中にここをつぞ』


 サンクチュエール騎士団の方にそう宣言し、父は腰に差した聖剣へ手を伸ばした。

が、案の定聖剣は抜刀を拒否。


『いいから、抜けろ』


 そう言うが早いか、父は無理やり聖剣を引き抜いた。

神々しいとすら感じる純白の剣身を前に、ユリウスはガクリと項垂れる。


「力ずくで抜いちゃったよ、この人……」


「公爵様、凄いですね!」


「もはや、人間じゃないだろ」


 キラキラと目を輝かせるイージス卿と呆れたようにかぶりを振るルカに、私は苦笑した。

────と、ここで父がこちらを向く。


『明日の朝までには戻る。しっかり戸締りをして、待っていなさい』


「は、はい。どうか、お気をつけて」


 完全に父のペースへ持っていかれ、私はただ頷くことしか出来なかった。


 本当は止めるべきなんだろうけど、ユリウスの様子を見る限り無理そうだし……。


 『もう勝手にしてくれ』と自暴自棄になる緑髪の青年を一瞥し、私は水晶に小さく手を振った。

すると、父も手を振り返してくれて……通信が切れる。

どうやら、ユリウスの魔力を使い果たしたみたいだ。


「はぁ……とりあえず、お出迎えの準備でもしておきます」


 数ヶ月ぶりの帰還となると、色々手配しなくてはいけないようで……ユリウスはのそのそと立ち上がる。

『今日は徹夜だなぁ……』と嘆きながら水晶を持ち上げ、退室していった。


 えっと……私も何かお手伝いした方がいいかしら?

でも、この場合は逆に邪魔になるかも……?


 『ありがた迷惑』という言葉が脳裏を過ぎり、私は悶々とする。

その間にも、着実に時間は過ぎていき────気づけば、ベッドの上だった。

どうやら、考え事の途中で眠ってしまったらしい。

『子供って、本当にどこでも寝るわね……』と苦笑しつつ、私は身を起こす。

と同時に、頭を撫でられた。


「もう起きたのか?まだ眠っていてもいいぞ」

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