悩み②
「てことで、ちょっくら行ってくるわ。直ぐに戻ってくるから、良い子にしとけよ~」
ヒラヒラと手を振って窓を通り抜けると、ルカはあっという間に飛んでいってしまった。
相変わらず行動が早い彼を前に、私は『い、行ってらっしゃい……』と呟く。
────と、ここで部屋の扉をノックされた。
「ベアトリス、私だ」
お父様……!
声を聞いて直ぐに正体を見破った私は、慌ててソファから降りた。
白いクマのぬいぐるみを抱いたまま扉に駆け寄り、急いで開く。
すると、そこには案の定銀髪の美丈夫の姿があった。
「夜中に悪いな。少しいいか?話がある」
「は、はい。どうぞ」
即座に父を招き入れ、私は一先ず来客用のソファに案内した。
『ありがとう』と言って腰を下ろす彼の前で、私も定位置に座る。
未だにお父様と二人きりになるのは、慣れないわね。
でも、こうして会いに来てくれるのは凄く嬉しい。
程よい距離感と浮き立つような高揚感に見舞われ、私は僅かに頬を緩めた。
『この時間がずっと続けばいいのに』と願う中、父はおもむろに足を組む。
「もう夜も遅いから、単刀直入に言おう────明日から、遠征に行くことになった」
「えっ?」
衝撃のあまり固まる私は、まじまじと父の顔を見つめた。
前回の記憶から、そろそろかな?とは思っていたけど、まさかこんな急に……。
もっと事前に教えてくれるものだと思っていたため、私は上手く状況を……いや、感情を呑み込めない。
『遠征に行ってしまったら、月単位で会えなくなる……』と嘆いていると、父がふと目を伏せた。
「本当はもっと早く伝えるべきだったんだが……ベアトリスに寂しい思いをさせてしまうのかと思うと、なかなか言い出せなかった。すまない」
「い、いえ……そんな……謝らないで……くださ、い……」
務めて明るく振る舞い、私は胸の前で手を振る。
が、何故か父はショックを受けたような……驚いたような表情を浮かべていた。
よく分からない反応に戸惑っていると、彼は席を立ってこちらにやってくる。
そして────私の目元を優しく撫でた。
ここにてようやく、私は泣いていることに気づく。
ドレスに染み込んだ涙の跡を見つめ、僅かに目を見開いた。
嗚呼、そっか。私────寂しいんだ。
中身はもう大人なのに、こんなことで泣くなんて……情けない。
でも、マーフィー先生の一件からずっと傍に居てくれたお父様がどこかに行ってしまうのは凄く凄く悲しい……。
『行かないで』と思ってしまう。
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