愛する婚約者に殺された公爵令嬢、死に戻りして光の公爵様(お父様)の溺愛に気づく 〜今度こそ、生きて幸せになります〜
あーもんど
第一章
逆行①
「────ベアトリス・レーツェル・バレンシュタイン、ここまでだ」
そう言って、私に剣先を突きつけてきたのは────ルーチェ帝国の第二皇子であり、私の婚約者であるジェラルド・ロッソ・ルーチェだった。
ルビーを彷彿とさせる赤い瞳に殺意を滲ませ、歩み寄ってくる彼は艶やかな金髪を揺らす。
ゾッとするほど美しい顔立ちからは、何の感情も窺えなかった。
ただ、『殺す』という意志しか感じ取れない。
「じぇ、ジェラルド……どうして、こんなことを?私達、愛して合っていたんじゃないの?」
結婚式を翌日に控えたこのタイミングで何故、刃傷沙汰になるのか分からず……私は目を白黒させる。
確かに『結婚式の前に一度、二人きりでこっそり会いたい』と言われた時は驚いたが、このような扱いを受ける謂れはなかった。
だって、七歳の頃から今日まで本当に仲睦まじく……お互いのことだけを想って、過ごしてきたのに。
『何か誤解があるのかもしれない』と思案する中、ジェラルドはハッと鼻で笑った。
「愛し合っていた?誰と誰が?」
「えっ……?」
「言っておくが、僕は────君を愛したことなど、一度もない」
「!?」
恋愛結婚だと信じて疑わなかった私は、まさかの発言に目を剥いた。
じゃ、じゃあ……私に優しくしてくれたのも『君を一番に想っているよ』と言ってくれたのも、全部嘘なの?
貴方だけが私を愛してくれると思っていたのに……。
家に居場所がなく、ずっと孤独だった私はもうジェラルドしか居なかった。
だから彼の要求に応え、お父様を説得し、皇位に就けるよう尽力したのに……。
「皇太子の座を手に入れた時点で、君はもう用済みだ。僕の人生に必要ない」
「そんな……」
ショックを受けて崩れ落ちる私は、ただ呆然と地面を見つめる。
ただ利用されて終わる人生なのかと思うと、虚しくて……。
そっか……ジェラルドの欲しかったものは公爵令嬢で、私自身じゃないんだ。
きっと、貧しい田舎娘だったら……見向きもしなかっただろう。
『貴方だけは他の人と違うと思っていたのに……』と絶望し、一筋の涙を流す。
もはや、この場から逃げ出す気力さえ残っていなかった。
「君には感謝している。きっと、僕の力だけではこの地位につけなかったからね。だから、一時はこのまま結婚するのもいいかと思っていた。でも────君を見ていると、無性に腹が立つんだ」
私の喉元に軽く刃先を食い込ませ、ジェラルドはスッと目を細めた。
「君と生涯を共にするのは、僕にとって拷問も同じ。よって、切り捨てることにした」
淡々とした口調でそう言い、ジェラルドは一度剣を下ろす。
そして、ゆっくり構え直すと────何の躊躇いもなく、私の首を刎ねた。
最後の慈悲として苦痛なく死なせてくれたのか、痛みはない。
あるのは、海より深い悲しみと虚しさだけ。
嗚呼……どうして、こうなってしまったんだろう?
私はどこで間違えたんだろう?
『愛されたい』と願うのは、それほど悪いことだったんだろうか?
飛び散る血を目で追いながら、私はそっと目を閉じる。
目の前の現実を拒絶するように。
『もう嫌だ……全部終わらせてくれ』と祈る中、
「愛だの恋だのくだらない」
と、吐き捨てるジェラルドの声が聞こえた。
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