幻想から見る神聖性

空からわさわさ

ゲオルク=ハッセによる社会科レポート 

 アルベルトは以下のようにも述べている。



 つまり、一般的に我々の文明は一度完全に崩壊したというのが、定説であるというのは、これまでの私の説明と一般的常識を照らし合わせれば自明であろう。

 しかしこの一般的定説に基づくと、非常におかしな事実が浮き上がってくる。

 そのおかしさは300年以上前から言われ続けていることではあるが、ここで再確認しよう。

 一般論として我々神聖帝国の国民は、世界で最も先進的な生活を送ることに成功していると言われていて、これは周辺諸地域(西のノルトフランクライヒ、南のイタリエン、東のオスターブルクス)の荒廃ぶりをみるとどうも正しいようである。

 有名な話だが、これら三地域では2週間に1度から1週間に5度のペースで黒い雨が降る。

 この雨にあたると、すぐに症状がでるというわけではないものの、いわゆる黒雨病にかかってしまう。

 黒雨病の症状も有名なものだが、ここで確認しよう。黒雨病は雨にどれほどの時間あたるかなどの条件によってその症状の重さがきまるものの、一般的には慢性的な熱、倦怠感、脱毛などが見られることが多い。

 また神聖帝国の住民は黒雨に耐性がないので、黒雨やそれによって汚染された土地で生産された農作物を食べると、先程の症状に加え多くの場合不妊の症状か、妊娠ができても奇形児が生まれる症状が出る。

周辺諸地域の住民は99%以上が黒雨病に罹患していて、黒雨に多少の耐性がある。しかし彼らはその耐性と引き換えに神聖帝国の住民と比較して長く生きられなくなってしまった。

 AC4007年の統計によると、我が神聖ヴィエナ帝国(神聖帝国)の平均寿命は男女平均で65歳だった。一方、同年の神聖帝国領ノルトフランクライヒ植民都市連邦の報告によると、ノルトフランクライヒに住む現地住民の平均寿命は30歳とのことだ。

(アルベルト=ブロンベルク AC4008 、56頁)

 (中略)

 ここでおかしな事実というものについて再度言及しよう。

 黒い雨の降水量を各地域において調べると、周辺諸地域においては神聖帝国領に近ければ近いほど降水量が増えることが確認されている。

 例えばAC4002年の統計によると、帝国の南方国境沿いにある北イタリエンの廃墟群(現在残っている史跡から、イタリエン語でベネツィアと呼ばれた町だったと言われている)では一日の半分以上の時間黒い雨が降っている。

 帝国国境から280km離れた場所に位置するノルトフランクライヒのオルレアーンという植民都市では、同年平均して一週間に12時間黒い雨が降った。

 一方、帝国国境から東に2200km離れた場所に位置するオスターブルクスの外れ、ハザール汗国首都アストラハンでは同年1度、1時間しか黒い雨が降らなかった。じつは、統計によると50年以上アストラハンでは年に一度、しかも決まった日(1月5日)にしか黒い雨が降っていない。アストラハンより東の諸都市はたいていこのような状況で、35年前に帝国が到達した最東端の都市(現地住民はチェリャビンスクと呼称)に至ってはもう5年黒い雨が降っていない。

 (なおアストラハンの北西には廃墟群があり、それら廃墟群では黒い雨がベネツィアと同じくらい頻繁に降る。原因は不明)

 しかし、神聖帝国の領内において、黒い雨が確認されたことは記録上2回しかない。

 『汎帝国領気候予想・実績』によると、記録上一度目の帝国内の黒い雨はケルン司教領でAC3105年5月6日午前4時45分から同日午前5時42分にかけて降ったとされている。

 同文書によると、記録上2度目の黒い雨による降水は新自由都市ハノーファーでAC3789年10月25日午後7時4分から同日午後9時34分にかけて降ったとされる。

(アルベルト=ブロンベルク AC4008 、76頁)


結論

 このアルベルトの考えに則ると、神聖帝国の領内はまるで結界に守られているかのようだと考えられる。

(南ベルリン中等教育学校後期課程 3年4組16番 ゲオルグ=ハッセ)


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