セックスしても出られない部屋
あきかん
文芸部最後の放課後
「文芸部は廃止する」
と、顧問の先生が言った。図書準備室でゲームをしていた二人は動きを止める。
「なんで?」
文芸部員の一人、姫路りしゅうは言った。
「実績がないから」
顧問は端的に答える。
「それなら仕方ないかもね」
と、文芸部員の稲荷紺が呟いた。
「だから、稲荷先輩はつまらないんですよ」
「はぁ!?今それ関係ある?」
「あるに決まっているじゃないですか。何事も簡単に受け入れてしまうその姿勢がつまらないって言っているんですよ、先輩」
「ちょっと聞き逃せないよ、姫」
文芸部員の二人が言い合いを始めた。顧問は退屈そうにしながら頭を掻く。煙草代わりの飴を取り出して舐めだした。
「先生!姫の言い分ひどいと思いませんか」
「稲荷先輩がダメ人間だからでしょ。そもそもお笑いに詳しいからって面白いつもりになっているのが根本的にダメなんですよ」
「はあああああああ!?それを言い始めたら戦争だろうが!」
「他所でやれよ…」
煙草吸いてえな。と顧問の男は思った。毎度毎度いい加減にしてほしい、と心底思う。顧問は図書室につながっている唯一のドア付近に椅子を動かして避難した。
ガチャガチャガチャ。と何か一人で手を動かしている顧問には目もかけずに文芸部員の二人は口喧嘩を続けていた。
「ああ、ちょっといいかな」
しばらくたって顧問が口を開いた。
「一応、実績があればまあ存続はしても良いってことになっているから」
「実績ってなんですか」
「M1の予選に出ろってことですか」
「いつから落ち研になったんだ、文芸部は」
顧問は呆れて肩を竦める。
「文芸部なんだから何か賞を取れれば文句なし。それでなくとも賞に応募するだけでも考えてはくれるだろう」
と、顧問は口にして話を続ける。
「だから、えーと、十万文字程度の小説書いて賞に応募すれば当面の問題は解決するってことだよ」
「なんだ、それなら簡単じゃん」
と、姫路りしゅうは言う。
「十万文字って、それだけ書くのは大変ですよね。いつまでですか」
「来月中かな」
と、稲荷の質問に顧問は答えた。
「まあ出来るかどうか少し考えてみろよ。とりあえず今日中にやると返事をすれば良いらしいから」
顧問はそういうと図書準備室から出て行った。そして、ガチャっと鍵を閉めた。
姫路りしゅうが図書準備室から出ようとして異変に気が付いた。
「ドアノブが無くなっている……」
「噓でしょ」
「あのクソ顧問が!」
図書準備室では姫路の怒声が響く。しかし、それは外に漏れることはなかった。無駄な防音設備がこの時初めて機能した。
姫路りしゅうはスマホをいじる。
「てめえ、なんで閉じ込めた」
「お前、仮にも先生になんて口を聞くんだよ」
と、スマホから聞こえてくるのは顧問の声。
「まあええか。文芸部は俺も潰すべきだとは思ってな」
「なんでだよクソ顧問」
「お前らが汚した床を誰が掃除していると思ってたんだ?」
顧問の言葉に口を閉じる姫路りしゅう。スピーカーモードにしていた為、稲荷紺にもその声は聞こえていた。
「まさかそんな……」
稲荷紺の顔が青くなる。
「セックスしても出られない部屋だよ、二人とも」
「ただの密室じゃねえか、馬鹿顧問」
「当たり前だ。神聖な学び場で何セックスしとんねん、お前らは!反省しろ。馬鹿。下校時刻には出してやる」
「先生、それは誤解ですよ。私と稲荷先輩はセックスしていません。お漏らしアンソロジーのために稲荷先輩にお小水を我慢させたら漏らしてしまっただけです」
「姫…ちょっと…それは逆効果」
稲荷紺が小声でつぶやく。
「は!!はめられた」
姫路りしゅうは叫んだ。
「はめてねえよ」
顧問はそれだけ言って通話を切った。
兎にも角にも二人だけの文芸部最後の放課後はこうして始まった。
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