19話『弟想い…?』
目に光が入ってくる。
薄らと見えてきた顔には見覚えがある。
「うぁああああん、アルト様ぁああああ!」
「えっと……」
目の前で叫びながら大号泣している子は俺の専属家庭教師のレナードだ。
記憶が少し混乱している。
確か俺は知らない男に魔石を奪われ、腹部に剣を刺されて。そしてそのまま意識が無くなって――
「本当にっ! 本当に心配しましたよぉおお」
「あぁ、ごめん。僕も死ぬ気はなかったんだけど……というか、僕死んでないの?」
「ネアさんのギルドにいるヒーラー全員がアルト様に回復魔法をかけてなんとかですよ! もう少し見つけるのが遅ければ本当にっ!」
止めどなく溢れ出てくる涙をなんとか拭って、レナードは言葉を続けた。
多分本当に心配していたんだと思う。それにネアや、俺に回復魔法をかけてくれた人たちにもきっと心配をかけた。
「強くなりたい気持ちとか、成長した自覚とかは確かにアルト様にしか分かりません! 家庭教師として、生徒の成長を止めるなんて本末転倒だと思っています! でも……それでもアルト様はもう少し自分を大事にしてください!」
「うん、ごめん……分かったよ、レナードに心配かけないようにするから」
「私だけの問題じゃないですってぇえええ!」
慰めようとしたのに、結果的に更に泣かせてしまった。
「あとレナードに謝らなきゃいけないことがあって……」
「なんですかぁ。泣くような事だったらビンタしますからね」
「いやぁ、泣かなくても叩かれそうなことなんだけど……その、レナードに貸してもらった一万ゴールドで買った魔石、あれ奪われちゃったんだよね。なんとか守ろうとは思ったんだけど。あはは……ごめん」
「そんなことで私が怒るわけないじゃないですか! アルト様の命が助かるなら私の全財産だってあげるくらいですよ! 昨日まで一万ゴールドが私の全財産だったんですけどね!」
「あ、ほんとにごめん」
まぁレナードは怒るどころか、少しそらを聞いて安堵したような表情を浮かべた。
まぁレナードのお金を借りたのは事実だ。出世払いとはいえ、いつかしっかり返そう。
「それでここはどこ?」
「うぅ、ネアさんのギルドの中にある治療室です……先程メノ様がここに訪れたみたいで、ネアさんが違う部屋でお話されているんだと思います」
「メノ兄さんがここに来てるの!? なんで!?」
「それは分かりませんが、アルト様の状況をシーナさんから聞いたみたいです」
つまりメノは俺のためにわざわざここに来たということだろうか。
クエストに誘ったのはネアだ。メノのことだから、もし本当に俺の心配で来たならネアと喧嘩しているかもしれない。
「ネアのいるところがどこの部屋か分かる?」
「分かりますけどまだ安静にしておいてください! 傷はまだまだ痛むはずです」
「あはは、確かに痛いけど……でもメノ兄さんが来た理由も気になるし、少しくらいなら大丈夫でしょ?」
「もう、アルト様は言っても聞かないんですから勝手にしてください!」
泣かせたあとは怒らせてしまった。
女の子とは難しいものである……。
レナードに案内され、俺はメノとネアのいる部屋の前に来た。
外からでもメノの声は響いている。相変わらず声が大きく、荒い口調をしている。
「んでよォ、ネアは検討がついてんのかァ? その謎の男ってやつは。てか、ネアの仲間のゼーラって女がアルトを襲ったって可能性はねェのか?」
「可能性としてないとは言い切れないが、その証拠は実際にないね。仮にもゼーラの天職は《偵察者》だよ。君も戦ったことあるなら、アルトくんの実力はわかるだろう、メノ」
「ちッ、知らねェけどよ。んじゃあアルトをネアが来る数分の間に殺せるやつが他にいるってのかァ?」
「まぁ、認めたくはないけどそれが実際にいるのだからこうなってるんだろうね……」
どうやら中ではあの男の正体を話し合っているらしい。男の顔や姿を確認したゼーラの証言からだろうか。
百聞は一見にしかずともいうし。とりあえず俺もこの話し合いに参加するとしよう。
一応ノックして入る。
「入りまーす……」
「アルトくん! よかった、目を覚ましたんだね。僕の任務だというのにこうなってしまったこと、本当に申し訳ないと思ってる。それにゼーラを守ってくれたことも」
「いや、そんなつもりじゃなかったので大丈夫ですよ。とはいえ、助けを呼ぶまでの時間稼ぎもできなかったですけど」
本当に情けない話である。
しかも一万ゴールドで買った魔石まで取られて。盗賊にあった気分だ。
「つかてめェ、何負けてんだァ? 毎晩俺様がてめェに強くなる術を教えてやってんだろうが!」
「いやいや! 本当に強かったんですよ!? ……でも、あいつに勝てるくらいには強くなりたいです」
俺の全てが相殺された。
《無からの
俺の兵士はあいつのペットにすら傷一つ付けられてない。
俺が弱いのもそうだけど、兵士もまだまだ弱い。
レッドウルフという種族自体、あくまで群れをなしてその強さが発揮できる。それでは勝てない。
「メノの弟想いも相変わらずだね」
「あァ? そんなんじゃねェよ、ボケが」
この親しい感じ。ネアとメノは元々知り合いなんだろうか。
けど、レナードがネアに会った時は初対面みたいだったけど。
「二人って知り合いなんですか?」
「まぁメノというより、レイズと元々クラスメイトだからね。そこから魔法学校の交でメノとは少し前に知り合った感じだね」
「そこに繋がりがあったんですね」
レイズはエンリア家の長男で、魔法学校の卒業生と聞いた。ネアも同じ学校の出身。しかも聞けば年齢も確かに同じだった気もする。
点と点が線になった気分である。
「で、メノ兄さん。メノ兄さんは昔から弟想いだったんですね。なんとなくそんな感じしましたけどね、あはは」
「てめェは俺が殺してやるから心配してただけだ、自惚れなよ落ちこぼれが。今からその根性俺様が叩き直してやる、外に出やがれ」
「嫌です、傷が痛みます。ネア! レナード! 助けて! 死ぬ、本当に殺される!」
俺はメノに服を引っ張られ、地面を引きづられる。
「んじゃあ、帰るぜネア。あの男の情報が出たらすぐに寄越せよ」
「あぁ、真っ先に君に伝えるよ」
「行くぞ、アルト。てめェは俺様が鍛え直してやるよ」
「……本気? 本気で言ってます? 無理無理無理! まだ死にたくない! まだ観光もできてない!」
「てめェがここに来た目的はネアに会うことだけだろうが。目的は果たしただろうが、帰んぞ落ちこぼれがッ」
「嫌だぁあああああ!」
俺はそのままメノに連れていかれ、レナードと共に再びエンリア家の屋敷へと戻ることとなった。
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