第140話 第4部第8話
試作ポーション、モンスターを狩るためのエナジー。
それがヴィクター・アルケミス君(16歳)が今回のオリエンテーション合宿で級友たちに振る舞ったポーションの名前。
いいか?モンスターを狩るためのエナジーだからな?名前が長いからといって間の部分を飛ばして読まないように。略称は“モンカル”でお願いします。
それはともかく。エリンやミリアムが率いる第1クラスは王都ネヴァリスタの王立学園を出発して早くも半日が経過しようとしていた。
朝イチに実施された説明会の直後から準備を手早く済ませた第1クラスの面々。セイラー家やストーンウェル家からの支援物資もささっと受け取り、午前中の早い時間帯には出発。
第1クラス100名のうち、騎乗に自信がある80名は騎馬に。残りの20名は4台の軍用馬車に分乗。馬車は一台当たり2頭の馬がひき、12頭の馬は乗り換えのために連れて行く。
これで生徒100名、馬も100頭。馬車は4台という高速機動編成の部隊が完成した。更に部隊は馬車の台数の都合で4つの分隊、25名づつに分けられた。
各部隊の荷物は馬車や人が騎乗していない馬に積まれ、全体としてかなりのハイペースでの行軍となる。
第1分隊はエリン、第2分隊はミリアム、第3分隊はカイラン・マトラ、そして第4分隊はジェズがリーダーに指名される。
第3分隊を率いるカイラン・マトラ。東部出身の彼は普段は東部地域出身者達のまとめ役であり、ジェズが小耳に挟んだ所では4つ上の学年の卒業生、レオ王太子派の1年生の元締めらしい。
ジェズとしてはこういった前に出るリーダー役などはあまりやりたく無かったのだが「……なら実力を踏まえてアルケミスかロレンツィにやらせるけどそれでも良いかな?」というセイラーのジト目に逆らえず引き受けることになる。
何にせよ馬車を中心にした4つの分隊が縦列で街道を爆進する。先頭を走る第1分隊の中から四騎が先行して街道を駆け、街道を行き交う人々に部隊が通過する事を知らせていた。
さらにこの学生たちの後ろからはやや距離をとって第1軍団の百人隊が追走。これを見た街道を行き交う人々は今年もこの時期が来たんだなぁなどと思いつつ未来の英雄たちに声援を送る。
第1軍団の面々は今年の一年の第1クラスの準備の手際の良さ、それから行軍に入ってからの進みの早さを見て内心で驚いていた。
事前情報としてセイラー家やストーンウェル家の天才と名高いご令嬢達、アルケミス本家やノーマン家の子息、そしてディヴィナ法王国からは聖女候補などの才能が集まっているとは聞いていたがまさかこれほどとは。
しかし軍団兵の中でも王都を守る第1軍団はエリート揃い。学生たちの不慣れな行軍についていくのは楽勝だろうと思っていたのだが。
昼を少し過ぎた段階でエリン達の部隊は1時間ほどの休憩を取る。この間、休憩がてら馬の世話をするわけだがアルケミス君(16歳)は何やらニコニコしながらお手製のマジックポーションを馬達にも与えていた。
彼によると馬たちにも疲労回復効果があるモノを与えているらしい。クラスの全員がヴィクターに感謝する中、ジェズは朝に聞いた不穏な笑い声を忘れる事ができず微妙な表情でその様子を見つめていた。
・ ・ ・
そして夕暮れ時。昼休憩の後も非常に良いペースで進軍する事ができた。彼らが今夜の拠点としようと考えていたのは王都から70km地点の宿場町すぐそばの広場。
装備の量や急な移動だった事から街の中には入らず、そのそばで野営を考えていたのだが。
「……おかしい、全く疲れてない。緊張してるからかな?……ミリアムはどう?」
「そうね、私も全然。むしろ力が溢れてきそうで持て余してるくらい。馬たちもなんだか興奮してて落ち着きがないわね」
エリンやミリアムとしては初日に70kmを走破出来たことは予定通り順調な行程なので、この場で野営をするつもりだった。
時刻は既に19時頃。ここから12時間ほど野営をして明日の朝7時頃に出発。6時間で65kmづつを2セット走破すれば明日の夕方過ぎには目的地のエルドア湖/ティリス森林帯に到着する見込みだった。
しかしまぁ、確かに間に合いはするのだが到着時間としてはギリギリではある。これが実際の戦で救援が必要なのであれば夜のうちにもう少しでも近づいておいて、近場で休息をとってから戦闘体制で一気に現地へ進出した方が良いのではないだろうか?
幸いなことに体力にもまだまだ余裕があるし、馬たちの調子も良い。クラスのみんなにも余裕がありそうだ。
エリンとミリアムを含めたクラスの中心メンバーが今後の方針について悩んでいると。その輪に近づいた前髪野郎はボソリと。
「……これはあくまで合宿だけどさ。本当に助けを求めている人たちがいるのであればまず迷わないんじゃないかな?それにほら。僕たちはまだまだ元気だよ?」
真剣な様子でエリン達に語りかけると。それを聞いたエリン達はしばらく黙り込むと。
「……そうだね、行けるところまでは行こうか。幸い道もこのまま整備された街道を進める訳だし、補給も問題ない」
エリン達が何やらヴィクターに良いように誘導されているのを少し離れたところから見ていたジェズは隣のセラフィナに確認する。
「なぁ、やっぱりアルケミスが提供してくれたポーション、何か変だよな?」
「そうだね、効き目は抜群だけどちょっと色々と問題があるかもしれないね。昔、毒の味を覚えるために飲ませられた劇物に近い味もした気がするし。教会だったら準禁忌指定されるかもしれないよ?」
とさらっと色々とヘビーなセラフィナの発言を聞いてゲンナリするジェズ。あの前髪野郎。大人しそうには見えるけど中身はとんでもないなとジェズが確信した瞬間だった。
こうしてヴィクターに唆されたエリン達は夜を徹して行軍を続け、翌朝の8時ごろにはエルドア湖/ティリス森林帯に到着してしまう。
王立学園でオリエンテーション合宿の説明が行われてから24時間も経過しないうちに200kmを踏破したこの大記録。もちろん長い歴史を持つ王立学園史上圧倒的な最速タイムとなるわけだが。
追走していた第1軍団の面々はまさか夜に野営をせずに駆け抜ける事になるとは全く想定しておらず、彼らの方も途中からマジ顔で部隊を進めていた。
そしてエルドア湖/ティリス森林帯到着後。流石に少し休憩するためにセラフィナや魔法を使える者達が野営地に結界を張って魔物避けを構築する。
この季節は魔物も増えているのでしっかり魔物避けを準備する必要があるのだが。
「くふっ。良いじゃん良いじゃん。王立学園なんてクソ喰らえ思ってたけど、色々試せるのは最高だね。……さて、学生諸君、君たちの力をもっと見せてくれよ。……反転術式発動!」
ちょっとトイレを済ませてくると言って野営地を離れたヴィクター。彼はそのまま人目につかないところへ行くと、何やらぶつぶつ言いながら結界に対して反転術式を使う。
反転術式。それは文字通りその術式が持つ効果を反転させるもの。現在セラフィナ達が構築したのはかなり強固な魔物避けの守護結界。
それの効果を反転させるということは。
「……!!魔物がすごい勢いで集まってきてるぞ!?」
見張に立っていた学生から悲鳴が上がる。
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