第90話 第2部エピローグ
官服をはためかせ、神槍を手に王都上空を駆ける文官。
そしてついにその槍がドラゴンの最も弱い部位である目を貫き、更にそのまま脳まで破壊した。
これは文字通りドラゴン種への特効を持つオリジナル魔法。効果は抜群だ。
そしてジェズがヴィクターから託されたこの三つの概念武装は、その組み合わせを変えることで機能が多様化する事も示した。
ジェズが王都に帰還直後、ラムセス王と戦っている際にヴィクターから三つの概念武装を渡されて併用した時は、ペンが両肩のキャノン砲に、そしてアームカバーがガントレットとなり、頭のおかしい錬金術師曰くフルアーマー文官Mk-Ⅱとなっていた。
一方で今回は官服の機能自体は変わっていないものの、アームカバーを足につける事で空戦が可能になり、更に二本のペンが互いにねじり合いながら巻きついた事で一本の槍となった。
差し詰め空戦型文官Mk-Ⅱと言ったところか。
官服の機能自体は大きい変化は無いものの、その衣裳や色味が変わっている。フルアーマー文官Mk-Ⅱは黒を基調としたデザイン、そして空戦型文官Mk-Ⅱはブルーグレーを貴重にしたデザインだった。
そしてタッシュマン王国において11番目のドラゴンスレイヤーとなった文官。
彼に脳を貫かれたドラゴンが空中でだんだんと力を無くしていき、その巨体を中に浮かべていた魔力が消失していく事で落下を始めようとする。
王都中で大歓声が上がる中、下に建物や人がいない事を確認したジェズがドラゴンの巨体をなんとか支えつつ徐々に降下しようとする中。
突然。
ドラゴンを起点に、王都中のオークキングが出現した十数箇所を結んだ大規模魔法陣が発動した。
・ ・ ・
特殊儀式魔法
彼の目の前には王国議会議長イヴァン・ドラゴミールと王太子レオ・タッシュマン。その後方には疲労を感じさせるラムセス王。
彼らは魔族の止めを刺す前に最後に取れる情報を取ろうとしていた。
「改めて聞く。貴様は何者だ?」
議事堂中に響く威厳がある声で議長イヴァンが問いただすが、アザルゴンと名乗った男は地面に倒れたままゆっくり首振り、
「いずれわかりますよ」
と答えるのみ。もはや得られる情報もないかと判断したイヴァンがラムセス王の方をチラリと確認する。その意図を汲んだラムセス王は一つ頷くと、
「生かしておく理由がない。殺せ」
と淡々指示を出した。そしてまさにイヴァンが大剣を手に振りかぶろうとした瞬間。外から大歓声が上がる。
どうやらドラゴンを討ち取ったらしい。議事堂内の面々からに歓声が上がる中。
「……くくっ。まぁ仕方ないですがこれはこれで」
そう小さく魔族がつぶやいた。不審に思ったイヴァンやラムセス王が問い出す前に。
「異世界転移魔法陣 世界のあらゆるものは、
その言葉と共に魔族は自ら命を絶った。それと同時。彼を中心にして光が王都中に走る。
その光は王都の各所で討ち取られていたオークキングを結び、複雑かつ大規模な魔法陣を構築。更に宙に浮かぶドラゴンを起点として魔法が発動した。
・ ・ ・
王都中を囲むような大規模な魔法陣が発動。王都中が光に包まれる中。
ジェズはこの光にどことなく見覚えがあるような気がしていたが
『大規模次元振発動の予兆を確認。今すぐに退避してください』
官服からのアナウンスによってハッとする。このままではマズイ。おそらくこの魔法陣。ヤバい転移系の何かである。
術式を見るに起点になっているのはジェズが支えているドラゴンの亡骸。これを中心に魔法が発動するのだとすれば、できるだけコレを王都から遠ざけなければ。
一瞬でそこまで判断したジェズは、最後の力を振り絞ってドラゴンを抱え、空高く舞い上がる。
しかし、重い。このままでは王都にも被害が及ぶかもしてない。そんな焦るジェズを支えたのが
「このデカブツを運べばいいんだな?」
焔の翼を煌めかせたレネ・タッシュマン。彼女の言葉に頷きつつも、
「姫殿下!この魔法、おそらくですが転移系です!早く離れてくれ!!」
ジェズの言葉を聞いて一瞬驚いた顔をしたレネだったが、一瞬で覚悟を決めると。
「構わん。王都の民を守るのが優先だ。……ただそうだな、一人は嫌だから手は離さないでくれるか?」
レネの言葉を聞いたジェズは一瞬惚けた顔をすると。お互いに手を握り合い、開いた方の手でドラゴンを空高く引き上げていく。
そしてついに魔法が発動した。光に包まれるタッシュマン王国王都ネヴァリスタ。しかし被害はゼロ。
その日。王都を襲った魔族、ドラゴン、オークキングの悉くは討ち取られ、被害も最小限に抑えられた。
しかしレネ・タッシュマン、およびジェズ・ノーマンが行方不明に。深夜まで捜索が続けられるも発見できず。
ただ一つ。エリン・セイラーがドラゴンとの戦闘跡地で見つけたものが手掛かりとなる。それは一本のペン。
「……ジェズ。姫殿下。必ず探し出します」
・ ・ ・
あまりにも眩い光に包まれ、浮遊感を感じたと思ったら意識を失った。何か夢を見ていた気もするが。
「……ここは?」
目を覚ますと洞窟らしき場所。しばらく思考が混濁していたジェズだったが、
「!?」
思考がはっきりした瞬間に思い出す。何らかの魔法に巻き込まれたことを。そして
「レネ姫は!?」
慌てて確認すると手を繋いだままのレネ。彼女はまだ意識を失っている。その存在を確認したジェズは少しほっとすると。
「このままも良くないか」
と呟き、意識を失ったままのレネを背負い風の流れを頼りに動き出す。そのまま十数分歩くとあっという間に出口に辿り着いた。
今はどうやら夜らしい。そんなに時間が経ってなかったらしく、ホッとしながら洞窟を出るとそこには。
“ダンジョン庁指定管理 東京都奥多摩ダンジョン”の看板。
「……は?」
第2部 王都編完結
第3部 異世界転移編へ続く
・ ・ ・
次話は作者後書き&第2部終了時点のキャラクター紹介
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