第5話
定時に仕事を終えたジェズが参謀部メンバー達と飲みに行った翌日の朝。早速ジェズはレイル達一部の参謀部メンバーと共に勤務前の朝練に勤しんでいた。
「ということでそろそろ終わろうか、おつかれさん」
「おつかれさまでした、ジェズ先輩。しかし意外と常識の範囲内でしたね」
朝練を終えたジェズが練兵場でクールダウンしていると、爽やかな汗をかいたレイルが意外そうな感じでジェズに話しかける。
朝練は6時から開始され7時に終わった。内容は30分ほどの軽めのジョギングから始まり、その後30分ほどで筋トレ一式と軽い模擬戦というものだった。
ジェズのこれまでの破天荒さからてっきり朝から地獄のようなトレーニングが始まるかと身構えていたレイル達参謀部メンバーだったが、意外と常識の範囲内のトレーニングで終わった事にほっとしつつも不思議に思い尋ねた。
「あぁ、勤務前に力尽きると本末転倒だしな。それにエリンに怒られそうだし」
と極めて常識的な回答をするジェズ。その言葉を聞いてホッとするレイル達だったが、
「まぁ毎日少しづつ負荷は上げ続けるけどな」
というジェズの不穏な呟きを聞き顔を引きつらせた。この人が増やすと言えばきっとどこまでも増え続けるのだろうという予感に身構えつつ。
そんな爽やかな朝に、
「諸君、おはよう!朝から精が出るな」
と練兵場にエリンを連れたレネ姫がやってきた。レネ姫の声を聞いた瞬間、練兵場から脱兎のごとく離脱しようとしたジェズだったが”ザッ!!!!”という音とともにレネ姫に進行方向に回り込まれる。
「おはよう、ジェズ・ノーマン。良い朝だな?」
「…おはようございます、レネ姫。今日も朝からお美しい」
「ふん。ありがとう。ところで人が来た瞬間に逃げ出そうとするのは失礼だと思わないかね?」
「いえいえ、すいません。レネ姫がいらっしゃった事に気づかず、シャワーに向かおうとしていました」
「あんなに急にダッシュでかい?」
「…はい、急に汗を流したくなったので」
朝から絶対ろくなことにならないと思ったジェズが全力で練兵場を離脱しようとしたものの、見事にレネ姫に行動を読まれる。
そしてネコ科の動物のような笑顔でニヤニヤしたレネ姫の様子を見たジェズは「あ、これアカンやつ」と思いつつも無駄な抵抗をしようとするが、
「エリン、ノーマンに木剣を渡してやってくれ」
というレネ姫の言葉にこの後の展開を悟る。
「はい、姫殿下。ほら、ジェズおはよう。これが訓練用の木剣ね」
歩み寄ってきたエリンに木剣を渡されたジェズはその木剣をしげしげと眺めながら
「姫殿下?これは?」
とすっとぼけた質問をしようして
「ふっ!!!!」「くっ!?」
レネ姫の突然の踏み込みからの木剣による叩きつけを、同じく木剣で受け止める。そして鍔迫り合い状態に持ち込み、
「…姫殿下?突然どうされたのですか?」
「ふふっ、完全に不意打ちのつもりだったのだが思っていた以上にやるではないか」
「殿下、せめて会話を成立させませんか?」
朝からこの人めっちゃテンション高いなと思いながらもレネ姫からの連撃を捌いていくジェズ。そのジェズの様子をみて徐々に剣戟の勢いを増していくレネ姫。
「素晴らしいな!!ここまで上げても着いてこれるか!!!ならばこれならどうだ!!!」
馬に乗れたり賊を倒せたり行軍に向けて体力充分だったりとジェズの基本的なスペックはそれなりに理解しているつもりだったレネ姫だったが、剣の腕がどの程度なのかは全くわかっていなかった。そのためたまたま練兵場で見かけたジェズに朝から絡みに行ったが思っていた以上の収穫である。
撃ち合うこと数合、ようやく少し落ち着いてきたらしいレネ姫がジェズから少し距離を取ると
「まさか内務省の役人がここまでの遣い手だとは思わなかった。素晴らしいな。ただまぁなんだ、流石に一流の剣士という訳ではないようだな」
と若干残念そうな表情をしてジェズを見た。突然だがレネ姫は剣の天才である。この武の才と圧倒的なカリスマ性を持ち合わせていたからこそ王族にしても異例となる齢20歳で軍団長を任された。
そんな彼女から見てもジェズは充分に強いが、逆に言うとそこまでである。
事前に内務省や北方の軍団長達から聞かされていた程のものでは無いなと内心ではがっかりしつつも人の噂に尾ひれが付くのは致し方なしかと納得する。
ジェズは全く知らない裏事情になるが、当初の予定では彼にはパートタイムで第7軍団を中心とした南方戦線の支援に入ってもらい、適正を見た後に第7軍団への転属可否を判断するつもりだった。
しかし出会い頭の衝撃やエリンとの仲の良さを見た上で自身の直感を信じて転属の判断を前倒ししたという経緯があった。
ただいずれにせよ事務処理能力の方が本物であることはこの1週間の報告で把握している。元々は第7軍団の事務仕事が逼迫していたがために中央へ応援要請を出していたのだが、この点だけでも内務省は良い仕事をした、ともはやジェズからやや興味を失いかけていたがそんな姫の様子に気づいたエリンが一言。
「姫、ジェズは普段はまったく剣を使わないですよ」
そのエリンの言葉を聞いたレネ姫は「ほぅ?」と再び関心をジェズに向ける。姫の関心が自分から離れつつあったことに気づいていたジェズは「エリンのやつ!またいらんことを!!!」とエリンを睨むが時既に遅し。
「ジェズ・ノーマン。それは本当か?」
「…そうですね、私は基本的には剣は使いません。というか文官なのでペンより重いものは持たない主義です」
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