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 警告アラート警告アラート

 外の侵入者はまだ排除できないらしく、相変わらず騒がしく鳴る。

「報告します」電子音声のアナウンスは緊張感もなく。「前線の警備隊は全滅しました。各研究室におかれましては、救援戦力の提供をお願いいたします」


「——だ、そうですが」

「良かろう」


 中央の椅子と男の他に、この部屋には物が散乱している。山積みになった備品や保存食などの供給リソースパック、そしてその横に並ぶアンドロイドたち。彼らは緊急時の防衛用個体であり、普段の使用を想定していないので、骨格が剥き出しの、眼窩にレンズをつけ関節を晒したまま、無骨で無機質然と立っている。

 リィが、彼らの首の付け根にある電源を入れると、小さなモーター音と共に彼らの目に光が灯った。命令オーダーを待つように、1体、また1体とリィの方に顔をむける。


「出番だ。前線の警備に加わってくれ。あとは管理部に従うように」


 了承しました。彼らは一列になって部屋を出ていく。ここは高所であり、どう降りていくのか気にはなったが、大丈夫か。まあ、いずれにしても最新鋭である。

 彼らを見送って振り返ると、リィと目が合った。


「今回の襲撃は、ひどく手こずっているようだね」

「そうですね。いつもなら、このくらいでは終わっているはずですが」

「警備隊は壊滅らしいじゃない」

 正確には全滅だが。「次の戦力まで入れば何とかなるでしょう」

「わたしの予想では、多分第2陣も破れる」


 殆ど確信に近い声色で。

 どうしてですか、と僕が聞くと、彼女は椅子の男の横に寄り添うようにしゃがみこむ。


「ローレンスの愛は、それくらい眩しいものだからだよ」


 僕は察しが悪いのか。もしかして、と問うには、ちょっと遅かったかもしれない。


「今回の襲撃は、そのローレンスが犯人なのですか」

「正確には、その半分だ」


 眠りにつくくらい、彼女はゆっくりと目を閉じる。


「わたしはDと呼んでいる」



 ローレンスは、かつて1人の人間だった。

 それが2つに分かれた。E《イーブン》とD《ディファレンス》。


「彼は好奇心旺盛で行動力があって、何より善性に満ちた男だった」


 それが2つに分かれるのは、当然自然現象には程遠い。さすがに、どんな人間であっても、勝手に分裂できるほどではない。


「分裂するのは、本人たっての希望だった」


 若くして興味に溢れた男。身体が1つでは何かにかけて足りず、時間に追われる生活だったのだろうか。


「分裂には外力が要る。それには〝加速装置〟を使った」


 加速装置ブースター

 そう呼ばれる物はこの地上にはいくつかあるが、おそらく人間の分裂までは出来ないだろう。少なくとも、彼女の発明以上に正確には。


「最大出力で最大加速は20km/h」

 その速度は、隕石の落下と同じくらい。

「それで——どうしたんです」


 リィは両手を広げて立つ。片方は椅子に居るEに、もう片方は壁の向こうを指す。


「引っ張ったのさ」

 そうして、2人の男は誕生した。

「約束をした。君の望みをわたしは叶える。だから、片方はわたしの傍にいて欲しいと」

 リィは腕を下ろし、力なく首を横に振った。

「同じものが2つ分かれたわけじゃなかった。Eは身体を、Dはその中身を持って分かれた」


 僕は、頭の中を整理するように呟く。


「では、目の前のEは身体だけの空っぽな人間で、襲撃の推定犯人であるDは、身体を持たずに——」なんだろう。霊体か何かなのか。「飛び回っている、と」


 リィは肯定も否定もしない。ぼんやりと立っているだけだった。


研究室ラボに固定して生まれたのがE、加速装置で引っ張って生まれたのがD。Dはそのまま飛び退って、わたしの元には帰らなかった。おそらく、今の今まで」


 刹那、壁から轟音が響く。耳をつんざくような爆発と共に、崩壊した。


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