3
外の侵入者はまだ排除できないらしく、相変わらず騒がしく鳴る。
「報告します」電子音声のアナウンスは緊張感もなく。「前線の警備隊は全滅しました。各研究室におかれましては、救援戦力の提供をお願いいたします」
「——だ、そうですが」
「良かろう」
中央の椅子と男の他に、この部屋には物が散乱している。山積みになった備品や保存食などの
リィが、彼らの首の付け根にある電源を入れると、小さなモーター音と共に彼らの目に光が灯った。
「出番だ。前線の警備に加わってくれ。あとは管理部に従うように」
了承しました。彼らは一列になって部屋を出ていく。ここは高所であり、どう降りていくのか気にはなったが、大丈夫か。まあ、いずれにしても最新鋭である。
彼らを見送って振り返ると、リィと目が合った。
「今回の襲撃は、ひどく手こずっているようだね」
「そうですね。いつもなら、このくらいでは終わっているはずですが」
「警備隊は壊滅らしいじゃない」
正確には全滅だが。「次の戦力まで入れば何とかなるでしょう」
「わたしの予想では、多分第2陣も破れる」
殆ど確信に近い声色で。
どうしてですか、と僕が聞くと、彼女は椅子の男の横に寄り添うようにしゃがみこむ。
「ローレンスの愛は、それくらい眩しいものだからだよ」
僕は察しが悪いのか。もしかして、と問うには、ちょっと遅かったかもしれない。
「今回の襲撃は、そのローレンスが犯人なのですか」
「正確には、その半分だ」
眠りにつくくらい、彼女はゆっくりと目を閉じる。
「わたしはDと呼んでいる」
ローレンスは、かつて1人の人間だった。
それが2つに分かれた。E《イーブン》とD《ディファレンス》。
「彼は好奇心旺盛で行動力があって、何より善性に満ちた男だった」
それが2つに分かれるのは、当然自然現象には程遠い。さすがに、どんな人間であっても、勝手に分裂できるほどではない。
「分裂するのは、本人たっての希望だった」
若くして興味に溢れた男。身体が1つでは何かにかけて足りず、時間に追われる生活だったのだろうか。
「分裂には外力が要る。それには〝加速装置〟を使った」
そう呼ばれる物はこの地上にはいくつかあるが、おそらく人間の分裂までは出来ないだろう。少なくとも、彼女の発明以上に正確には。
「最大出力で最大加速は20km/h」
その速度は、隕石の落下と同じくらい。
「それで——どうしたんです」
リィは両手を広げて立つ。片方は椅子に居るEに、もう片方は壁の向こうを指す。
「引っ張ったのさ」
そうして、2人の男は誕生した。
「約束をした。君の望みをわたしは叶える。だから、片方はわたしの傍にいて欲しいと」
リィは腕を下ろし、力なく首を横に振った。
「同じものが2つ分かれたわけじゃなかった。Eは身体を、Dはその中身を持って分かれた」
僕は、頭の中を整理するように呟く。
「では、目の前のEは身体だけの空っぽな人間で、襲撃の推定犯人であるDは、身体を持たずに——」なんだろう。霊体か何かなのか。「飛び回っている、と」
リィは肯定も否定もしない。ぼんやりと立っているだけだった。
「
刹那、壁から轟音が響く。耳をつんざくような爆発と共に、崩壊した。
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