第13話 待望
「『数年ぶり、待望のシリーズ最新刊!』 みたいなのってあるじゃん?」
いつものように先輩が唐突に話しかけてくる。
「ありますねぇ。最近も話題になってましたね、私は読んでないですけど、確か4年ぶりだとか」
私は文庫本のページをめくりながら答える。
「ああいうのさ、ネットですごい盛り上がってるの、ちょっと羨ましくない? あたしも『10年待ってた! 嬉しい!』とかってはしゃいでみたいんだよね」
私たちの年齢で10年待ってたとなったら児童書か絵本になってしまうが、まぁ、気持ちはわからないではない。
「前の巻が出た頃の思い出話とかしてるの、楽しそうだしエモいですよね。あの頃は何々してた〜とか」
話しながら、ふと思いつく。
「例えば、私が先輩に貸してるシリーズの刊行が急に止まって、それで10年後とかに続きが出たら、きっとこの部室でのことを懐かしく思うんでしょうね」
10年後―――、私や先輩は、どこで何をしているだろうか?
そんな未来に思いを馳せていると、
「―――ふーちゃん、それは駄目だよ」
……あれ?
「それってさ、あたしとふーちゃんが、10年後は疎遠ってことじゃん。ふーちゃんは、あたしが卒業したら、もう会わないつもりなの?」
ひどいっ、あたしのことは遊びだったのね! などど馬鹿げたセリフを言っているくせに、なぜだかその声は本当に悲しそうに聞こえてしまって―――
「―――冗談ですよ、」
そう言って私は微笑みかける。
「心配しなくたって、先輩が卒業したって、今貸してるシリーズの続きは渡してあげますから!」
「そーゆー話じゃないんだけどなぁー」
などと不貞腐れる先輩を横目に、私は、さも話は終わったというように文庫本へ視線を戻す。
心の中で、「だから、卒業しても会いに来てくださいね」と付け加えながら。
今日の部室の私たち(の与太話) @kuramori002
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