第11話 諦念

「つかぬことを聞くけどさ」

 いつものように先輩が唐突に話しかけてくる。


「なんですか?」


「……読み始めた小説が、冒頭10ページぐらいで既に微妙な感じだったとして、最後まで読む?」

 先輩の手の中に、読み始めたばかりらしい文庫本―――しおりが随分前の方のページに挟まれている―――がある。


「うー……ん、その微妙さが何由来かによりますね」


「ほうほう、詳しく聞かせて貰おうじゃないの」


 何キャラなんだ、このひと。


「ええとですね、その『微妙な感じ』って、原因が大きく3つあると思うんですよ」


 私は指を三本立てる。そして、


「ひとつめ、キャラクターが微妙。ふたつめ、展開が微妙。みっつめ、文体が微妙」


 指を折りながら数え上げた。


「なるほど、それで?」


「まだ読み始めたばかりなら、キャラと展開はです。どうなるかわからない。だから読み続けます」


「あ―――、文体の場合は……」


「はい、文体は基本的には変わらないので……その……」


 残念でした、と言う感じである。残念なのは、その本なのか作者なのか、あるいは私なのか。ともかく、悲しいミスマッチである。


 ただ―――


「―――ただ、ひとつだけ例外があります」


「と言うと?」

 先輩が大げさに身を乗り出す。


「ジャンルがミステリの場合は、冒頭でどんなに微妙だと思っても絶対に最後まで読みます。なぜなら―――」

 先輩に付き合って、大げさにもったいぶってみる。


「なぜなら、可能性が否定できないからです」


「た、確かに……! 文体そのものが伏線だったり、叙述トリックの一部だったりする可能性、ある!」


「で、先輩は何を読んでいたんです?」


「……ミステリ」


「どうするんですか?」


「……読むかぁ、続き」

 そう言って先輩は文庫本を開き、私は私で読書へ戻る。

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