第126話 もう良いよ

 ディーンがやって来た。

「聖剣ネメシスセイバーは、エルフ族の女王カッサンドーラ様が責任を持ってヤヌシア州の何処かに封印しました」

「……うん」

「レーフ公爵領にいるドワーフ族以外の魔人族はヤヌシア州に平和的に移住して、今は落ち着いて生活しています」

「そう、か」

「治安が劇的に改善したのと魔人族が作り出すハイ・ポーションからの利益が順調な事もあり、ジューニー州から定期的に食料を購入しては運んで……ヤヌシア州はエヴィアーナ公爵が支配する以前の安寧を取り戻しつつあります」

「良かった。他には?」

「いつから貴方は……僕がイチジョウイン・ソウだと気付いていましたか?」

「変に思ったのはリヴィウスの葬式の時だ。ヤヌシア州に旅立つ前の告白で、確信したけどね」

「そう、でしたか」

ディーンは大きく息を吸って、吐いて――それから俺を見据えて、言った。

「僕はミナモトさんの家に火を付けて貴方の家族を殺しました。復讐の続きをするなら、どうぞ」

「もう良いよ。

僕は家族を助けられた。今度こそ間に合ったんだ。また僕の家族に手を出すと言うなら話は別だけれど、ディーンにはそのつもりも無いだろう?」



『放火した理由、答えろよ』

『だって……仕方なかったから』


 少年院と、俺に捕まって拷問を受けている間だけ、体の支配権が戻っていたんだろうな。

だとしたら、俺達はお互いにお互いを間違えていた事になる。

それでも、あの時は『仕方なかった』んだ。

でも、もう『今』は『あの時』じゃない。



『全く頭の悪い男だ、貴様は』

『自覚はあるよ』


 「……」

俺を凝視していたディーンがゆっくりと震えだし――しばらくして小さな子供のように声を上げて泣き出した。

「ごめんなさい、ごめんなさい、事件を知って、隙を突いて……警察に行くだけで精一杯だったんです、それしか出来なかったんです、たったそれだけしか、どうしようもなくて、仕方ないと思わないと、耐えられなくて、」

「あれだけ拷問したのに無抵抗だったのはそれが原因か」

「だって止められなかったから、僕の体なのに止められなかったから、誰も気付いてもくれなくて、僕はいつも一人ぼっちで、」

「もう良いって言っただろ。ディーンは僕の大事な弟だよ」

それにさ、『ウルトラハッピーエンド』にはオマエも必要で不可欠なんだぜ。

でなきゃどうしてオマエまでこの世界にいるんだ。

これ、間違いなくユーリの仕業だろ?

『今度こそ』をユーリだって望んでいるんだ。

「――うわあああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!」

つんざくような凄まじい声で泣き叫ぶから、仕方なく俺は痛む体に鞭打って、ディーンを抱きしめてやって、ワシャワシャと頭を撫でたり、ムギュムギュと適当に頬を両手で推してやったのだった。

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