第63話 崩壊した男の友情

 「私は勿論『分析』を使ったのですけれども、中々にテオドラ嬢も観察眼が鋭くってよ。流石はヴェネット家の総領娘ですわね」

「あら、麗しのクレオパトラ様にお褒め頂くなんてとっても光栄ですの。お客様の需要と嗜好の調査は商人にとって必要不可欠なのですの。私もハイハイする時期からしっかりと叩き込まれた甲斐があると言うものなのですの!」

「うふふふ。――私には、レクス様がとりわけ分かりやすかったですわ。運動した後でほんの少し右肩を回す癖が、何も隠し切れていませんでしたもの」

「「…………!」」

俺達はレクスを睨んだ。

オマエの所為か!

「あらあらですの。ちなみに私はユィアン侯爵令息を一目で見抜けましたのですの。だってほんの少し猫背なのですの。しかもいつも沢山の本を左脇に抱えていらっしゃるので、癖で左肩がわずかに持ち上がっていらっしゃるのですの」

「「…………!」」

俺達はヴァロを睨んだ。

オマエの所為か!

「でも真っ先に誰なのか判別できたのは……レーフ公爵令息ですわ」

「そうなのですの」

――げえっ!?

お、俺の所為か!?

「「…………!」」

レクスとヴァロが怨敵のように俺を睨んできたが、そ、それどころじゃない!

『だろうなと思っていたよ。何しろジンには……特徴的な癖がある』

『何!?どんな癖!?教えてくれ、カイン!』

『それは……』

カインが言うより先に、クレオパトラ嬢が教えてくれた。

「失礼ですけれども……お顔に大きな傷痕があるでしょう?きっと無意識なのでしょうけれども、傷痕のない所を指先で触る癖がレーフ公爵令息にはありますから」


 そうだ。

引き攣れたり痛んだりして、うっかり傷痕を触ると、デボラが泣きそうな顔をするから。

ディーンに『痛くないの、大丈夫!?』って凄く心配されるから。

……でも、完全に無意識だった……。


 「そ、そうだ!カインの所為だ!」

「う、うむ!そうである!全部カインが悪いのである!」

レクスとヴァロが突然裏切った!

な、何するんだよ!

ふざけるなよ!

「何で僕なんだよ!レクスもヴァロも見抜かれていた癖に!」

「俺に責任を押しつけるなよ!」

「そうだ!カインがそもそも終始、全部、完璧に悪いのである!」


『……男の友情など、砂の城よりも呆気ないものだな……』

『うるせえええええっ!!!』

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