第58話 立ち上がろうと

 翌日、俺が登園した時に珍しくレクスが教室にいた。いつもは『鍛える!』とか言って、運動場や魔法訓練場で始業ギリギリまでトレーニングしているんだけれど。ヴァロはいつも寝坊しかけて駆け込みで来るから(夜中まで研究をやっているそうです、はい。)、別にいなくても何もおかしくない。


……昨日のレクスの様子が気になっていたので、いつもより俺はかなり早く登園したのだ。

人気のない廊下を歩いていたら、何とヴァロが俺の後を追いかけてきた。

いつもは始業の鐘の音の直前に、城から逃げてきたシンデレラのごとく教室に駆け込んでくるのに……。

「……おはよう、ヴァロ」

「うむ……おはようである、カイン」

俺達は軽く頷き合って、教室に入った。

「…………」

レクスはボーッと椅子に座り、頬杖をついて宙を眺めていたが、やがて俺達の気配に気付いて顔を向けた。

「カインとヴァロか」

「おはよう、レクス」

「おはようである、レクス」

3人きりの教室の中で、レクスはもう少しだけボーッとしていたが、立ち上がった。

「ちょっと一緒に鍛えようぜ」

頭で悩んでもどうしようも無い時は、思いっきり体を動かすと良い考えが浮かぶ。

「うん」

「うむ」


俺達は魔法訓練場に向かった。まだ学園に学生や教職員が集まるよりも時間が早すぎて、校舎の中にも外にも誰もいなくて閑散としていた。たまに忙しそうな清掃業者とすれ違うくらいだった。

訓練場で、軽く体をほぐして温めたり、深呼吸して瞑想したりして、魔法模擬戦のための準備運動をしていた時だった。

『――おい!』

カインがいきなり騒ぎ出した。

『何だ?』

『この魔法訓練場の裏手の倉庫に人が集まっているぞ。こんな朝早く、貴族が倉庫に一体何の用だ?……この反応、魔力の低い平民を貴族達が大勢で囲んで……いや、平民共を人質に取っているのか!?』


――ああああああああああああああああああ!!!!!

まさか、あの貴族派の女子生徒達か!?

いや、貴族派の生徒がエヴィアーナ公爵家の指示でクレオパトラ嬢へ報復しているのか?

いずれにせよ――過激な最終手段に出やがったのは確定した!


俺はレクスの手を掴んだ。

「ん?」

レクスの口を俺はあらかじめ押さえてから言う。

「クレオパトラ嬢達が危ないかも知れない」

「!」

「何処であるか!?」

ヴァロが小声で聞いてきたので、

「こっちだ!」

俺は走り出した。

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