第45話 兄貴肌
その時ディーンがまた泣き叫び始めた。
「おかあさまー、おかあさまぁー、あぁあああああああああああああぁあああああああああああああああん!!!」
――そうだ。
俺は我に返る。
ディーンがいた。
ここにいてくれた。
俺を復讐の地獄のどん底から救ってくれる最後の蜘蛛の糸。
「ディーン!」
「おにいさま、おにいさま、おかあさまがぁ、おかあさまがぁ……うわあぁあああああああああああああぁあああん!!!」
俺はディーンを抱きしめて何度も「だいじょうぶ、だいじょうぶ……」と祈るように繰り返した。
『……』
「ううっ……何と哀れな……」
近衛騎士の人がもらい泣きしかけた所で、交替の近衛騎士の人がノックの後に部屋に入ってきた。
丁度、他の人も用事があるようで出て行ってしまった。
「どうだ?何か変わったことは」
「いや、何も……」
そこで交替の近衛騎士も俺達を見て呟いた。
「哀れにも程がある……いくら見せしめとは言え、やり過ぎだったな」
近衛騎士が交替してすぐに、ようやくディーンが寝てくれた。泣き叫ぶのに疲れ果てたみたいで、うなされながらも目を開けようとしない。
「……ねえ、おじさん」
俺はディーンをベッドに寝かせて毛布をかぶせると、近衛騎士にすがるように近付いた。
「おじさん、おかあさまをたすけて、おねがい!」
「済まないな、私はご覧の通りに地属性なんだ……回復することは……」
「そう……」俺は唇を舐めた。「ところで、リンドスはくしゃくけがつぶれたってしっている?」
「は?」
「ぼくたちがさっきつぶしたんだよ」
驚くと同時に俺を捕まえようと手を伸ばしてきた近衛騎士の体を魔剣ドゥームブリンガーにポイと軽く食べさせて、俺とカインは近衛騎士の持っている情報を調べた。
どれどれ……?
うわー……。
『リンドス伯爵家に弱味を握られた貴族が嫌々ながらも結構な数、手駒になっているんだな……』
俺は思わず舌打ちしそうになった。
『「見せしめ」なんてリンドス伯爵家の内輪の者しか知らない情報を漏洩する辺り、コイツは手駒としては使えないカスだがな』
カインが嘲笑する。
『それは同感かな。ただ、「見せしめ」にしたかったけれど――スティリコさんが想定以上に強かったのとデボラがここまで大怪我を負ったのは誤算……だったんだろう』
『だろうな。実際、デボラの母上を襲った事で貴族派にとっては最悪の事態が起きつつある』
『まさかのまさかで、皇太后派と皇帝派が「同盟」を組んだからなー』
『皇太后派と皇帝派は「話し合い」で妥協点が探れる相手だ。「見せしめ」で脅迫する相手とは誰だって「話し合い」さえしたくは無いだろうな』
『カインが言うと説得力がフルスロットルものだよ』
『何だと!?貴様ァ、俺をバカにするのもいい加減に、』
『怒るのは後にしろ、マザコンオブマザコン!早くデボラを治すんだよ!この近衛騎士は吐き出して二重スパイとして泳がせておけば良いだろ!』
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