第43話 暗殺組織が内部抗争で潰れたみたいだよ?怖いねー(棒読み)

 さっさと片付けたかったので、操っているリンドス伯爵当主に闇魔法を詰め込んだ爆弾を仕込んで暗殺組織カタルシアの総本山の中に送り込んだ。

『兄上……どうされた?』

リンドス伯爵当主の視界と鼓膜に頭領の姿と声が間近に映って聞こえた瞬間。

はい、ドカン。


 総本山はとある娼館だったんだけれど、いやーキャンプファイアー顔負けに良く燃えているね!

でも中には『生存者はいない』から安心してくれ。

勿論、類焼なんて巻き添えも起こさせないから。

火事で大事な人を亡くすなんてそんな辛い経験、俺が誰かに味わわせる訳が無いだろう?


 それから俺達は帝国城の北の離宮のトイレに潜入して、魔剣を解除し用を足した後で出てきた。

何度も洗面台で顔や手を洗う。石けんを何度も使い、バシャバシャと全身が水浸しになるくらいに。

ドゥームブリンガーをまとっていたとは言っても、火事の臭いって結構しつこいから、確実に消しておかないとな。

「カイン君!」

しかし俺を探していたらしいフラヴィウス皇太子殿下は、上手いこと勘違いしてくれた。

「それ以上、1人で泣くな!」

「あの、こうたいしでんか、ちがうんです」

これは証拠隠滅なんです……。

だけど俺が『違う』と真実を訴えたためかフラヴィウス皇太子殿下にも疑われなかった。

俺は『1人で泣いている』事については違うと言ったけれど、証拠隠滅のために全身をビシャビシャになるまで濡らした事については何も言わなかったから。

程良い沈黙ってのは、事実を上手く錯誤させてくれる。

「彼を風呂に入れて、それから西の離宮の筆頭女官の所へ連れて行ってやってくれ……」

言われた女官も『必死に泣くまいと1人で何度も顔を洗って誤魔化しているなんて何て健気なデボラ様のお子様』と言う哀れみの眼差しで水浸しの俺を見て、すぐにそうしてくれた。


 「申し訳ない!」げえっ!絶対安静のはずのスティリコさんがデボラが眠る部屋の真ん前で土下座している!光魔法でほとんどの怪我は治せるけれど、大怪我の場合は光魔法を浴びすぎた副作用で心身が不安定になるのだ。その副作用が落ち着くまで、少なくとも丸3日はしっかりと寝ている必要があるのに。「全ては私が無力ゆえ……!」

「止めて下さいスティリコさん!」コンモドゥスが止めようとしているけれど力が全然足りていない。「むしろ貴方は6名も返り討ちにしたでしょう!?」

え?あの暗殺者共を6名も仕留めたのか!

スティリコさん、マジで優秀だな……。

いや、デボラを守ろうと必死になってくれたんだ。

「だがデボラ様をお守り出来なかったのだ!」

「ああもう!お願いですよ、このまま貴方にまで何かあったら……!」

そこでコンモドゥスは湯上がりの俺を見つけた。

「カイン坊ちゃま!スティリコさんが言うことを聞いてくれなくて……!」

スティリコさんは真面目で誠実だからな……でもこれは良くない。

「スティリコ!おかあさまにあやまるなら、さきにからだをなおしてよ!」

「ですが!」

「おかあさまは、だいじょうぶ、だから……」

俺が涙ぐむとスティリコさんはぐうっと息を詰まらせた。

スティリコさんにも年の近い子供達がいるから、この涙攻撃は効いただろうな。

「あのね、おねがい……!」

「ぐっ……承知、しました……」

コンモドゥスに半分背負われるようにして、スティリコさんは救護室まで帰って行ってくれた。

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