第34話 流石に庇えないし、庇いたくもない
その日は、放課後に俺がレーフ公爵邸に立ち寄ってガイウス殿下からレーフ公爵家運営のあれこれを教わる予定があった。
デボラが、俺があの大騒動を起こした後で真っ先に謝罪に連れてきた先でもある。
「やあ、その様子だと反省はしているようだね」
「はい……」
それから俺達は少し世間話をしていたが、俺はふと思いついて、ちっとも見つからないヴァリアンナ嬢の家庭教師の件で、フェニキア公爵家がとても困っている事を打ち明けた。
「それで、ヴァリアンナじょうのかていきょうしが……ぼくたちのせいで。ほんとうに……どうすればいいんでしょうか……」
「ふむ」とガイウス殿下は少し考え込んでから、「キシリアの……私の妻の実家を知っているかい」
「ええと……カトーこうしゃくけですよね?」
今やガイウス殿下は皇族の籍を抜けて、カトー公爵家に婿入りしている。
「そうだ。その、実は……つい先日、義父の隠し子が見つかってね」
「ええっ!?」
『何だと、隠し子だと!?』とカインまで俺の中で呟いた。
か、隠し子って、こっそり愛人と作った……隠し子か!?
ガイウス殿下の義父ことカトー公爵と言えば、マース州の執政官も務めたことがある大御所だぞ!?
勿論、カトー公爵夫人がいる。しっかりと、ご健在である。
「情けない話だが、執政官を務めていた頃、カッサロ男爵家の未亡人に手を出していたようで……」
「ひえ……」
想像しただけで超ド修羅場である。
カトー公爵夫人は社交界でも有名な、年齢を感じさない高貴な美女らしいのだが、同時にとても気位が高いことで有名だ。
先の皇帝を排出した家の出身で、しかもその縁でファウスタ皇太后が皇太子妃だった頃の専属女官を若い頃に勤めた経験もあるって聞いているから、まあそりゃ気位だって超高いよなーと簡単に想像できる。
……あ、待てよ。
夫人は皇太后と強い繋がりがあるんだろ?
カトー公爵、まさか殺されてないよな?
既にコンクリートで足を固められて海の中……とかじゃないだろうな。
比べるのもアレだが、俺達の起こした時計塔の大騒動が少しだけ可愛く思えてきたぞ。
ガイウス殿下はため息をついた。
「妻の実家は半壊してね……義父は未だに起き上がれないそうだよ」
『むしろ、それに巻き込まれたと言うのに、よく生きていたな!?』
こればかりはカインに全面的に同感である。
「は、はい……」
「だが、本当の事情を知らなかったカッサロ男爵家の未亡人と隠し子は哀れだと妻も言っていてね」
「え?どういうことですか……?」
「身分詐称だよ。悪質だが……義父は貴族向けの大商人として身分を偽って近付いたらしく」
「……うわぁ……」
「男爵家の未亡人は真剣に結婚も考えていたらしい。子が出来たので迫ったら、途端に行方をくらませたそうだ」
「……」
「未亡人はそれでも後を追ってね……とうとう、先日にカトー公爵家に現れたんだ」
『怖いな……女の執念は……』
「……」
「義父は否定したが……義父と、キシリアと、隠し子の魔力波測定がとても高い域で一致したからにはね……しかも義母とは一致しなかった」
魔力波測定とは、いわゆる遺伝子鑑定のようなものである。魔力を持つ貴族しか通用しないけど。カトー公爵と夫人だけだったら「兄弟のかもしれない」「親戚のかもしれない」と言い逃れも出来ただろうが、カトー公爵の娘とも一致したってなると……。
「しかし義母は未亡人も隠し子も決して許さないと言っている。あの義母の気性からすれば仕方ないのだろう。泣き崩れた未亡人は、冷静になったところで身の安全のために修道院に入ることを了承してくれたが、隠し子は成人したばかりの17才だ。修道院に入れるにはあまりにも不憫で、妻とて異母妹を庇いたいが、義母には逆らえない」
そこで俺も気付いた。
男爵家出身で、17才で――女。
『ああ……そうか』
「そのひとを、フェニキアこうしゃくけのかていきょうしに?」
「ああ。義母の激情は皇太后様が時をかけてなだめて下さるとおっしゃっている」
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