寝ているだけで高収入

金峯蓮華

本当に眠っているだけで大金がもらえるの?

 恋人の貴史が会社を共同経営していた親友にお金を持ち逃げされた。


 月末までに支払いしないと倒産してしまうと頭を抱えている。


 金策に走っていたがなかなか難しいようだった。


「麻衣、頼みがあるんだ。眠っているだけで高額報酬がもらえる仕事があるんだ。俺が行くべきなんだろうけど、あいつに逃げられて俺まで消えたら会社は本当に倒産してしまう。お願いだ。代わりに行ってくれないか」


 土下座で拝み倒された。


◇◇◇


 指定された場所についた。とても良い天気だ。こんな日に眠るのか。

 玄関には国立大学医学部付属研究所と書いてある。受付でNプロジェクトの治験のアルバイトに来た南麻衣ですと告げると、事務服の女性が手元の書類の束から私のものを取り出した。


「南麻衣さんですね。お渡ししたカードはお持ちですか?」


 私は面接の時に渡されたカードを出した。受付の人は書類を見ながら照らし合わせているようだ。


「確認できましたので、ご案内いたします」と言われ私達は長い廊下を進んだ先にあったエレベーターに乗った。

 受付の人は地下5階のボタンを押した。


 到着し、ドアが開く、降りてすぐのドアには女子更衣室と書いてあった。


「ロッカーに入っている服に着替えて下さい。持ち物は全てロッカーに入れて下さい。着替えが終わったら、こちらの部屋でお待ちください」


 そう言うと戻って行った。着替えを終え隣の部屋に行くと、私と同じ上下に分かれた患者衣を着た、色々な年代の男女が10人くらいいた。


 みんな私のようにお金に釣られてきた人なのだろう。俯いている人や頭を抱えている人など、楽しそうにしている人は誰もいない。


 私がぼんやり周りの人を見ていたら、ドアがカチャリと開き白衣を着た若い男性が入ってきた。


「それではご案内します。皆さん私についてきて下さい」


 広いホールのような場所に案内された。そこには以前、整体院で入ったことのある酵素カプセルのようなドーム型のベッドがいくつもあった。


「南麻衣さん、こちらにどうぞ」


 名前を呼ばれたので進む。


「この中で仰向けに寝て下さい。まず採血をしますね」


 私はカプセルに入り、寝たままで採血をされた。


「時間が来たらカプセルが開きます。そこで仕事は終了になります。それではゆっくりお眠り下さい」


 自動的に半透明のカプセルの蓋が閉まり、私は言われた通り眼を閉じた。


 食事やトイレはどうするのか聞けばよかったな。まぁいいか、食事の時間になればカプセルが開くのだろう。そんなことを色々考えていたらカプセルの内部の空気が変わったようなした。甘い匂いがする。なんだか眠いなぁ。私は意識を手放した。


◆◆ ◆


 カチャっと音がし、目が覚めたら、カプセルの蓋が開いていた。


 よく寝たなぁ。ものすごくすっきりしている。身体を起こし周りを見るとみんな私と同じようにキョロキョロしている。


 ドアが開き白衣を着た人が沢山入ってきた。


「おはようございます。皆さん体調はいかがですか? 今から採血をします。採血の後は最初に案内した更衣室で着替えをして荷物を持って隣の部屋にお集まりください」


 私は来る時に来ていた服に着替え、荷物を手に隣の部屋に入った。そこには最初と同じ10人くらいの人がみな元気そうな顔で座っていた。


 扉が開き白衣の男性が入ってきた。最初と同じ男性みたいだが、なんだか違和感がある。


「皆さん、実験は成功しました。ご協力ありがとうございます。報酬はご指定いただいた銀行にすでに振り込まれています」


 よかった。貴史の支払いに間に合っただろうか。


 顔を上げると前で話をしている男性と目が合ったがすぐに逸らされた。男性は難しい顔をしている。


「ただ、皆さんが眠られている間に予期せぬ機械トラブルが起き、カプセルドームの設定が狂い、修正不可能になってしまったため、予定より長い時間眠っていただくことになってしまいました」


 長い時間? どれくらい眠っていたのだろう。


「その分報酬は上乗せさせていただきます。あと、住まいやこれからの仕事が必要な方はこちらで用意いたします。ご安心下さい」


 住まい? 仕事? 話が見えない。


 あちこちで「どういうことだ!」「ちゃんと説明しろ!」と声が聞こえる。


「最初は1ヶ月の予定だったのですが、機械トラブルで20年この中で過ごしていただきました」


 20年? 私達はそんなに眠っていたのか? 


「それなので、住まいや仕事にお困りの方がおられるかと思います。こちらの方で誠心誠意対応させていただきます」


 後ろに座っていた男性が声をあげた。


「20年と言われても、私達は見た目は変わっていないのですが?」

「そういう実験でした。カプセルの中で皆さんの時間は止まっていましたので年はとっていません。皆さんは20年前のままです。アクシデントはありましたが、実験は大成功でした。皆さんありがとうございました」


 白衣の男性は満足そうに微笑んだ。よく見るとこの人は実験が始まる時に説明をした男性だ。違和感は20年の月日で年相応に老けていたからだった。


 研究所を後にして、アパートに向かうが、アパートは駐車場に変貌していた。彼に電話をしたが繋がらない。店はどうなったのかと思い、彼の店に行くと違う店になっていた。


「ここは田端屋というラーメン屋さんではなかったですか?」

「あれ? ひょっとして麻衣さん?」


 カウンターの中に居たのは彼の店でアルバイトをしていた佑樹くんだった。


「田端屋のオーナーは20年前に泡銭が入ったと豪遊した挙句、破産して共同経営者に刺されて亡くなりましたよ」

「え? 20年前に共同経営者がお金を持って逃げたって?」

「いえ、共同経営者はいましたが、お金を持ち逃げなんてされてませんよ。確かあの時『うまいこと言って麻衣を騙して大金が入ってきた』と言って2人で遊び歩いていたからバチが当たったんですね。金で揉めて共同経営者の女に刺されたんです」


 私は騙されていたのか。私が20年眠っている間にふたりは天国と地獄を味わったのだな。


 銀行に行き残高を確認した。確かに20年前に貰った報酬は引き出されていたが、昨日付でその20倍のお金が振り込まれていた。私は窓口に行き、紛失したことにして新しくキャッシュカードを作った。これだけあれば死ぬまで遊んで暮らせる。銀行から出て見上げた空は20年前のあの日と同じように雲ひとつなかった。


                   了

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寝ているだけで高収入 金峯蓮華 @lehua327

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