第41話 ルミルには難しすぎる

 いつからそこにいたのだろう。杏里と湯川麗子がドアの前にいた。杏里の義手はすでに直っていた。


「あの時ほど人間というものを身近に感じたことがなかった。水沢さんに救われたこともあるけれど、異種族の中に生物の本性を見た気がした……」


 麗子の頬が濡れていた。


 ルミルは、ホワイトとゼットの顔を見やった。彼らは不快感を覚えていないだろうか? それにしてもお母さんや向日葵叔母さんが聖獣戦隊だったなんて、アン・ビリーバボー!


「オーヴァルは、そんなに強いのか?」


 ゼットがミラに訊いた。


「ええ、……強いというのは暴力的なそれでなく、生命力という意味よ。国連軍は、オーヴァルに有利な地上戦を避けて大規模な空爆をしたわ」


 彼女の言葉を杏里が引き取る。


「爆撃はオーヴァルが支配したエリアを取り巻くように行われ、逃げて中心部に集まったオーヴァルの頭上にとどめのナパームを落とすという虐殺を呈していた。……その方法に人権団体や人権家が異議を唱えることはなかった。オーヴァルの侵攻を受けていない国々まで、積極的にオーヴァルの絶滅を前提とした攻撃を提案した。人類が作る国連にとって、オーヴァル殲滅は正義だった」


『国連軍のオーヴァル掃討は、世界の至る所を焼野原に変えたのよ。そこでオーヴァルは消えたけれど、ナパーム弾の高熱で固まり化学成分が地質を変えた大地は、人の住めない土地になった。国連は核兵器まで使ったのよ。巻き込まれて死んだ住人もいたでしょう。でも、焼いても、焼いても、オーヴァルは現れる』


 声は、ルミルのウエアラブル端末の上に浮かんだ向日葵の小さなホログラムのものだった。彼女はレディー・ミラが物語を初めた時に現れて、聖獣戦隊側の情報を補足していた。


「皮肉なことに、生き残ったオーヴァルは安全な住処いどころを求めて生息地域を広げた。彼らが先進諸国に近づくと、世論に変化が表れ始めた。そのころも多くの政府やメディアは、ファントムと取引を行うと宣言したSETを批判していたけど、オーヴァルに追われた国々の亡命政府やメディアが、SET支持を表明した」


「どうしてそうなるの?」


『日本では、SETとオクトマンが不戦協定を結んでファントムが現れなくなった。代わりにオーヴァルが出現したように見えたからね。ファントムがオーヴァルの天敵だと考えたようよ』


「ふーん」


 ルミルはまだ、人間と異種族が共存する理屈も、母が義手になった理由もわからなかった。


「そう、時代の転換点は、大東西ビルでの戦闘でした」


 懐かしむようにミラが話し始めた。

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