1128 終焉を迎える1つの恋

 ヤクザの非情な本質を教え。

その上で、倉津君と付き合うと言う事は『家族も反社に関わる人間に成る』と聞かされた素直ちゃんは、自身の認識の甘さに呆然とするしかなかった。


そして……


***


「・・・・・・」

「ふぅ……なんか、嫌な事バッカリ教えちゃってゴメンね。でも、これが包み隠す事の無い現実でもあるの。甘い恋愛感情だけで乗り切れる様な、単純な問題じゃないんだよ」

「だったら……向井さんは?向井さんは、どうなの?向井さんには、その覚悟が有るの?」


矢張り、話の流れから言って、奈緒ネェの方に目が向いちゃったか。

でも、同じ相手に対して恋愛をして来た以上、この場合はそうなっても仕方がない事なのかもね。


だったら……



「奈緒ネェ?あぁ、奈緒ネェなら、真琴ちゃんとお付き合い始めた時点から、そんなヤクザの嫁に成っても良いって覚悟を持ってるよ」

「えっ?」

「真琴ちゃんの為なら、家族も、自分の地位も毛程にも感じない様な人だからね。あの人は、簡単に全てを投げ捨ててでも真琴ちゃんをとる様な人なの。この辺は、少し壊れてるって言ってもおかしくないって位にね」


実際の話をすれば、奈緒ネェは、なに1つ壊れてなんかいない処か。

あれ程、真琴ちゃんの為に冷静な判断をして、献身的な態度をとり続けられる人なんて、恐らくはこの世にはいないと思う。

けど敢えて此処では、その行動力を「壊れてる」って言った方が素直ちゃんには自分の置かれている現状を理解し易いだろうし、納得出来る内容になるものだと思って、こう言う発言をしてみた。


まぁそれにウチのお姉さんは、本当に全部投げ捨ててでも、真琴ちゃんの為に尽くしてくれそうだしね。


いや寧ろ、奈緒ねぇの場合、真琴ちゃんの妻に成る為だったら、誰かに何かを言われる前に、先に自ら動くだろうし。

さっき問題に上がった、自身が持つ資産に関しても、妻に成ると決まった瞬間には即座に倉津組の組織の物としてしまい。

その後は、一切組の人間が関与出来ない様にしてしまった上で、組での立場を作り上げてしまおうとする可能性すらある。


早い話、奈緒ねぇの資産を「組員にはしのぎ」と換算させた上で、誰からもグゥの音も出ない様な状態で『組内での姐さん』って立場を作ってしまうって事。


奈緒ネェは、そう言った強い信念と行動力を持った人だからね。



「それって、僕と向井さんじゃ、持っている覚悟が違いすぎるって事?」

「うぅん、そうは言わないよ。ただ、今からでも素直ちゃんが、自分の意思を貫き通すつもりなら、その程度の覚悟は必要だって話。それに一般の人からも、ズッと後ろ指刺される様な人生を歩まなきゃならないって覚悟も必要だね。……何所まで行ってもヤクザは、世間から見れば日陰者でしかないからね。一般人の様な甘い生活だけを夢見ても、それは叶わぬ願いと言うものだよ」

「うっ……うぅ……うぅ……僕には、そんなの無理だよ」

「……そっか」

「僕は……僕はね。真琴君と一緒に幸せな家庭を築きたいと想ってただけだから……そこまでの強い覚悟は持て無いよ」


ハァ……真琴ちゃんを諦めさせる為とは言え。

こんな知りたくもない嫌な知識を植えつけて、本当にゴメンなさいだね。

でも私がこうでも言わないと、いつまで経っても気持ちの整理もつかないだろうし、真琴ちゃんに対する想いも、いつまで経っても消える事がない。


だからこそ、今この話をさせて貰った。


まぁ……真琴ちゃんにしたら、誰にも知られたくない事実だったろうけどね。



「うんうん、普通はそうだよね。それがマトモな考えだと思う。……だからもぉ、真琴ちゃんの事は……」

「うっ……うっ……うわ~~~ん」


……泣いちゃったか。


でも、そりゃあ、そうだよね。

素直ちゃんは素直ちゃん也に、一生懸命、真琴ちゃんとの恋愛を夢見て追い駆けてた来た結果が、これじゃあ、余りにも残酷な結末。


……でも、そう思う反面、私は、本当にこれで良かったんだとも思う。


この残酷な真実を、素直ちゃんが後に知ったら。

傷口が、もぉ修復不能な位まで広がっていたかも知れないし。

その頃には、ヤクザの問題以前に、下手をしたら奈緒ネェに対して強い嫉妬を感じて、殺意の様なものすら育っていたかも知れない。


そう考えると、この恋愛も潮時だったと思う。


勿論、こんなものは、私の自分勝手な思い込みでしかないのかも知れないけど。

私は、そんな程度の事で、自分の知り合いが不幸になるのが嫌だ。

どうせ傷付くなら、傷口が浅い内に、早く対処すべきだったとも思うしね。



でも、本当にごめんね……辛い思いさせちゃったね。

だから、もし目一杯泣きたいなら、幾らでも、泣きたいだけ、泣いても良いと思う。


悲しい現実は、涙で流してしまうのが一番良いからね。


***


 ……この後、素直ちゃんは止まる事無く15分程ズッと泣き続けて、漸く泣くのをやめた。

そして、ヤクザの本質を教えた私に対して何度も感謝の念を伝えてくれてから、素直ちゃんは風呂を後にする。


そんな風に、今の話が感謝して貰える位には、素直ちゃんになにかが伝わってくれた事に、私は喜びを感じていた。

だから、その素直ちゃんがお風呂から出て行く際に、私は1つだけお願いをしてみた。


此処を出て行く前に『思い切り良い笑顔を見せて欲しい』と頼んでみた。


まだまだ気持ちの整理がついていない状態なのも十分に解ってはいたんだけど。

こんな悲しい表情のまま大部屋に戻って、人に逢わせる訳にも行かないからね。


だから此処は1つ、良い笑顔を作れる様に頑張って貰った。


そして素直ちゃんは、直ぐに、その私の要望に応えてくれた。

普段の笑顔から比べると大分ギコチナイ笑顔ではあったんだけど、彼女なりに必至に良い笑顔を作ろうとしてくれた。


この素直ちゃんの笑顔からは、私自身、またまた大きな満足を得る事が出来た。


これで漸く、長かった真琴ちゃんと素直ちゃんの恋愛事情にもケリがついた証拠なんだろうしね。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【後書き】

最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございましたぁ♪<(_ _)>


序章から長く続いていた「素直ちゃんの片思い」

これで全てが解決した訳ではないのですが、一旦は心の整理がつき、終結を迎える事が出来たと思います。


流石に家族まで関わってくる問題まで話されたら、中学生に対応出来る様なレベルの問題じゃありませんからね。


ある意味【現状では諦めるしかない】の一択しかなかったと思います。


ただ、こうして終焉を迎えたのは良いとしても。

この話を聞いて、今後素直ちゃんは、倉津君に対して、どう言う態度で接してくるのかと言う大きな問題が残っている以上、楽観視出来ない部分ではありますがね。


さてさて、そんな中。

今回、その問題を定義してしまった張本人の眞子は、その辺りの今後の事も考えなきゃいけなくなったので、此処で少し考える時間を持つ必要が出てきました。


なので次回は、その考えを少しでも纏めていきたいと思いますので。

良かったら、また遊びに来て下さいねぇ~~~(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾

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