1127 甘い認識だけでは乗り越えられない恋愛もある

 なんとか素直ちゃんの気持ちを、倉津君から引き剥がそうとして説得する眞子だったが。

矢張り一途な性格の素直ちゃんには通じなかった。


なので眞子は説得の最終手段を用いて……


***


「そっか。じゃあ、素直ちゃんが、真琴ちゃんを好きである事には、私は、もぉなにも口出ししないけど。最後に幾つかだけ確認しても良いかな?」

「確認?……あぁ、うん、良いけど。なにかな?」

「素直ちゃんね。真琴ちゃんがヤクザの組長さんの息子だって事は解ってる?」

「うん、それは解ってるよ」

「そっか。……じゃあね。そんな真琴ちゃんと、お付き合いするって意味も、ちゃんと解ってる?」

「えっ?組長の息子さんだとか、そんなの関係ないよ。僕は、ただ真琴君が好きなだけだから」


案の定だ。

素直ちゃんは恋愛感情だけで真琴ちゃんを見ているから、ヤクザの事がなにも解っていない様子。


だけどこれは、非常に甘い認識だ。


素直ちゃんが、どう思ってるかは知らないけど。

ヤクザの世界は、素直ちゃんがそんな考えで渡って行ける程、甘い世界じゃないよ。


凄くドロドロした、世の中の闇を全部かき集めた様な最低の世界なんだよ。



「そっか。じゃあ、それを踏まえた上で最後に聞くけど。お父さんや、お母さんがヤクザの身内になっても大丈夫?……これだけは、素直ちゃんが好きなだけじゃあ解決しない問題だから、シッカリ答えてね」

「えっ?それって、どう言う意味?」

「うん?あぁ、そっかぁ。答える以前の問題として、ヤクザの根本が解ってないか」

「ヤクザの……根本?」


そぉ、此処を理解した上で、自分の持ち物を全て失ってでも真琴ちゃんを好きで居たいって言うなら、これはもぉ完全にお手上げだ。


……でも、所詮は中学生の考え。

恐らくは「好き嫌いだけの問題」だけをメインに考えてる筈だから、そこまで深くは考えではないと思う。



「そぉそぉ、ヤクザの根本。……良いかな、素直ちゃん?ヤクザって言うのはね。自分の身内になったら、問答無用で骨の髄までしゃぶり尽くす様な生き物なんだよ。自分が生き残る為なら、平然と親兄弟ですら食い物にする。そんな最低な生き物でもあるのね。そんな人間の身内に成れるか?って話」


これは脅しでもなんでもない。

ヤクザの実態を在りのまま伝えただけの真実。

現に私が知っているだけでも、こうやってヤクザの酷い食い物にされて、地獄に叩き落とされた人間は数知れず居る。


世間じゃ『ヤクザは身内にだけは優しい』『任侠がある』だのとメディアの流した嘘八百に踊らされて、間違った認識を持たされがちだけど。

あんなものは、銀幕の仁侠映画か、漫画でもない限り、ただの幻想そのものだ。


私は生まれてこの方、そんな任侠味溢れるヤクザを見た事が無い。


あの、強面だけど優しい玄さんですら、そういう冷酷な部分を持ち合わせているからね。


だから、まさに有り得ない。


まぁ仮にだけどね。

この私の話に恐れる事無く、素直ちゃんが真琴ちゃんと結婚までしたら、もぉその時点で素直ちゃんの血族は、全てがヤクザに身内だと思われる。


そうなったら最後、やくざ達は決して容赦はしない。


素直ちゃんの家庭だけじゃなく、親戚の有り金も全部を吸い尽くされるわ。

不動産を持っていれば、勝手に売却されるわで、酷い目に遭う事は必須。


まぁ……その程度で済んだら御の字なんだけど、更に悪い事は続く。

此処まで酷い目に遭っても、ご両親や、ご親戚は警察には駆け込めないんだよね。


なんせ勝手に使っていても、無理矢理にでも合法的に使った事にしてしまうのがヤクザだし。

そうやって反社会的勢力にお金が回ったとあっては、資産家のご両親のイメージが悪くなるって言うのを解った上で行動してるからね。


そこまで計算して、ヤクザは勝手な事をする生き物なの。


こう言う認識が無いなら、安易にヤクザ者と付き合っちゃいけないんだよ。



「えっ?なんで?なんで、そんな酷い事をするの?」

「なんで?って、自分の身を守る為なんじゃないかなぁ?それでいて、なんとも思わないのがヤクザって生き物だからね。まぁそれでも素直ちゃんが、真琴ちゃんへの愛情を貫き通すって言うなら、私には、もぉ本当に、なにも言う事はない。でも、最低限度、そう言う認識や覚悟を持たないと、一家全員が身を滅ぼすよ」

「えっ?えぇっと、でも、僕、あの、真琴君が……」


うん、もぉ無理だね。

やくざの実態を知らされ。

言葉と裏腹に、心の動揺を隠せずに、完全に目が泳いでるもん。


完全にテンパッてる。


じゃあ、申し訳ないけどトドメを刺させて貰うね。



「うん、そうだね。素直ちゃんが、真琴ちゃんの事を本気で好きなのは、私にも十分に理解は出来てるんだけど。でも、真琴ちゃんは、ヤクザの組長に成るべくして生まれてきちゃったと言う事実は変わらない。この運命から逃れる事は難しいと思うよ」


まぁ実際の話で言えば、このヤクザの環境から抜けれる方法が全く無いって訳じゃないけどね。


でも、結構、これは大変な作業。

特に倉津家は何代も続く闇社会の黒い歴史の塊みたいなヤクザの組だから、生半可な気持ちじゃ、此処からは抜け出せない。


なのでもし、それでも素直ちゃんが、真琴ちゃんと同じ道を歩み続けたいと言うなら、そう言う茨に塗れた道を行くしかない。


この恋愛を本気で成就させたいのであれば、その程度の覚悟は必要だって話だね。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【後書き】

最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございましたぁ♪<(_ _)>


今回のお話は、少々ヤクザの本質と言うものを誇張して書いている部分もありますので、当然、全てのヤクザの組織が、そういう行為をする訳ではありません。


ただ昨今のヤクザ事情と言うのは、結構冷え切ってきている部分があり。

どんな大きな組であっても、窮地に陥れば、なにをしでかすか解らないのも現実だと思いますで、こんな風に書かせて頂きました。


ですが、そんな事よりも本当に問題になるのは。

仮に素直ちゃんと倉津君が付き合った場合【世間の目が、資産家である素直ちゃんのご両親もヤクザの身内とカウントしてくる事】

早い話、この恋愛を成就させると言う事は【育ててくれた両親や、一族すら裏切る様な行為に成ってしまう】訳です。

特に倉津組は、日本全国を対象にしても5本の指に入る大きな組なので、その世間からの冷たい目は、より一層大きなものとなると思われますしね。


……っで、眞子は、この辺りの事に気づいていましたので、今回注意を促した訳なのですが。

これがまだ、素直ちゃんの『ただの恋愛感情』だけで倉津君を追っているだけならば、恐らくはまだ、此処までの注意はしなかったと思われるのですが。

今回『肉体関係』まで素直ちゃんが求めて来てしまっていたので『これは流石に、このまま放置しちゃ不味い』っと思い、注意を促す結果になった訳ですね。


さてさて、そんな注意喚起を促された中。

眞子の話を聞いて動揺を隠せない素直ちゃんは、一体、この後どう言う言動をするのか?


次回は、その辺を書いていきたいと思いますので。

良かったら、また遊びに来て下さいねぇ~~~(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾

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