第38話 頼りない王太子(※sideエルシー)

「でもやっぱりご兄弟よ。ほら、顔立ちや髪や瞳の色は似てるじゃない?」

「えぇ~。顔立ち似てる?そうかしら」

「似てるわよ。目や鼻をよく見て。パーツの形はちゃんと似てるの。要はバランスの問題よね」

「やだ、ちょっと、失礼よあなた。うっふふふふ」

「きゃはははは……!」


 身分の隔たりなく平等に学べる学園。

 そうは言っても、やはり学生たちが親しくするのは自分と境遇や立場の似通った者ばかりになる。私の周りも、皆男爵家やこの学園に通えるレベルの裕福な商家の娘などだった。マナーや教養の程度も似通ってる。きっと上流階級のお嬢様方はこうして王族の陰口や噂話をこんなところではしないのだろうけど、私はこういうのが気楽で好き。


「そう考えると、他の何もかもが違うわよね。アンドリュー様は背が低くてスタイルもあまりよくないでしょ?ご友人も決まった数人しかいないみたいだし。あれもどうせ皆、将来の立場とかを考えて王太子殿下の周りに侍ってるだけよね」

「なんか暗くておどおどしてるしね、王太子殿下って。覇気がないっていうかぁ。……それに比べて、トラヴィス殿下ったら……」


 友人の一人がうっとりした表情でため息をついた。それに合わせるように皆ウンウンと頷く。


「私初めて見た時本当に気絶しそうだったわ!あんなにカッコいい人ってこの世にいるのね!」

「ええ。背が高くて足がすごく長くて、あんなに完璧なお顔立ちで……!色気もすごいわ。あの笑顔……」


 私も激しくウンウンと頷く。その第二王子殿下に私が必死で言い寄っていっては振られたことなど、この子たちは知らない。殿下のそばに行く時はいつもコソコソと一人で行動していたから。


「トラヴィス殿下はご友人も多いし、いつも堂々とした振る舞いでオーラもすごいわ。さすがは王族って感じ。ああ……、どんな女性とご結婚なさるのかしらぁ。いつも高位貴族のご令嬢が周りにたくさんいるわよねぇ。いいなぁ……あの人たち。あんな素敵な殿下のおそばにいられて」

「皆きっと必死なのよ。トラヴィス殿下の心を射止めたくて。だっていまだにご婚約者がいないのよ?!信じられる?」

「そうよね。なぜなのかしら。そりゃ高位貴族のご令嬢方には狙われるわよねぇ。トラヴィス殿下の妻になれるかもしれないチャンスがあったら私だって血眼になって頑張るわよ。はぁ~……私も侯爵家に生まれていたらなぁ」


 皆似たようなことを考えるものだ。虚しくなる。

 ため息をついて視線を窓際に向けると、隅の席に一人のとびきり美しい女性が座って食事をしているのに気づいた。


「……メレディア・ヘイディ公爵令嬢だわ」

「……あら、本当ね」


 私の呟きに、皆が一斉にそちらをジロジロと見る。


「……孤高の人よね。メレディア・ヘイディ公爵令嬢」

「いつも一人よね」

「だって見てよあれ。あの完璧な美貌。姿勢。雰囲気。……とても近寄れないわよ」

「成績だって入学以来ずっとトップよ。見て、あのウエスト。……あんなに細くて美しくて、髪もツヤツヤで……。見た目も中味も完璧。一体どんな生活してるのかしら」

「完全無欠の公爵令嬢とか言われてるわよね。王族に嫁ぐのってあのレベルの人なのねぇ。……まぁ、同じ王族なら私は絶対第二王子の方がいいけど」

「あら、私だってもちろんそうよ!」

「でもヘイディ公爵令嬢は選べなかったはずよね。あのヘイディ公爵家のご令嬢ですもの。王太子殿下に嫁ぐために生まれてこられたようなものだわ」

「いやぁ~ん可哀想。絶対第二王子殿下の方がお似合いなのに!」

「学園を卒業したらあの頼りなさそうな王太子殿下のサポートをしながらご公務に邁進する生活が始まるのねぇ、ヘイディ公爵令嬢。大変だろうなぁ」


 噂話はいつまでも続いているけれど、私は皆の会話を聞きながらぼんやりと考えていた。アンドリュー王太子殿下……。たしかに頼りなくて、いつも自信なさげで気が弱そう。見た目はさえないけど……、少なくとも、トラヴィス殿下のように私をきっぱり拒絶することなんて、できそうにないわよね……。


(……ううん、さすがに無理よ。王太子なんて)


 そう思う反面、別の可能性が頭をよぎる。

 あの全てが完璧な、完全無欠の公爵令嬢なんて呼ばれてる、メレディア・ヘイディ様。……王太子殿下って、あんなに気弱で野暮ったい感じの人なのに、あんな完璧な女性がそばにいて疲れないのかしら。比べられて落ち込んだり、焦ったりしないのかな。


(……もしあの頼りなさげな王太子殿下にそういう気持ちがあるのなら、そこを上手くつつけば私になびいちゃったりしないかな)


 いつも弟君の第二王子や婚約者の公爵令嬢と比べられて、皆から失望されてる空気は感じてるはず。そこに私みたいなか弱い美女が「あなたはとても素敵。あなただけを頼りにしてます」って近づいてきたら……。


 ……さすがに完全無欠の公爵令嬢から王太子殿下を奪い取るのは、無理があるかしら。でも……


(ダメで元々。試してみよう)

 

 私にそんな気持ちを起こさせるくらい、アンドリュー王太子殿下はものすごく頼りない雰囲気の人だったのだ。





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