第95話 成長は着実に

 ドラゴニルとブレアの父親が苦戦している間も、俺たちは学園で必死に授業を受けていた。

 魔力なし判定の俺は魔法を使える連中と同じ授業を受けられないので、魔物を滅する力のコントロールするヒントをどこで手に入れようかと、俺は必死に考えていた。

 この能力は男の時だってまともに使いこなせていなかったんだ。

 それが原因だろうな、当時は女だったドラゴニルのドラゴン姿と相打ちだったんだからな。

 女となってから努力を続けてはきたものの、まだきちんと扱えている気がしない。そもそもこの力は分からないところが多すぎる。独自の努力もしたし、ドラゴニルとの特訓だってした。それでもまだまだ自分の力の事がよく分からない。

 散々発生した魔物の襲撃でも力は使ってみたものの、ちゃんと扱えていたかと言われるとよく分からないんだよな。

 どうにもまだ、俺は自分の持つ力を表面的にしか扱えていない感じがしてたまらなかった。なにせ、訓練を重ねれば重ねるほど、力の謎が増していく感じがしたからな。なんというか……、何か触れちゃいけないものに触れている感覚だった。

 なんというか、底のない谷間を覗き込んでいるような、何とも言えない恐怖感に陥るような錯覚を覚える感じである。

 だが、今の俺は騎士を目指す真っ只中に居るのだ。ここで留まるわけにはいかない。分からないなりにも、その力を自らのものにすべく、今日も学園の授業に打ち込んでいる。


「いいか? 魔力というものをちゃんとコントロールできなければ、魔法はすべて不発に終わってしまう。しっかり魔力の流れを把握し、どのような効力をもたらしたいのか思い浮かべ、そして、詠唱と共に放つんだ」


 マキュリの熱の入った指導が行われている。ブレアたちはそれに従い、魔法を使うイメージを日々高めていっていた。

 ブレア自身は魔法はもうガンガン使えるわけなのだが、指導したのはあのドラゴニルだ。制御という点においては非常に怪しかったのである。

 実際、先日の野外実習でのスライムの一件でも、スライムの弱点であるはずの魔法を使えるはずなのに一切使っていなかったからな。おそらくは制御がうまくいかないから使えなかった、もしくは、脳筋に偏り過ぎてすっかり忘れていた。このどちらかという事だろうな。本当にお嬢様なんだからこれ以上脳筋に染まらないでくれよ、ブレア。

 一応マキュリの指導を受けるブレアの表情は真剣なので、そのうち魔法もしっかりと制御できるようになるはず。……多分。


「こら、アリス・フェイダン! よそ見をするな!」


 気になって様子を見守っていたら、ジークが俺を叱ってきた。まったく目ざとい奴だな。よそ見はしているが、授業はちゃんと受けているんだからな。

 まったく、俺がドラゴニルの娘っていう立場なせいか、ジークの奴はとことん目の敵にしてくれてるんだよな。正直言ってうざい。

 よそ見をするなと言われても、ブレアの事が気になってしまうんだからしょうがない話だ。

 とはいえ、これもブレアがドラゴニルの影響を受け過ぎたせいだ。全部ドラゴニルが悪いんだよ。


「アリス・フェイダン! まだよそ見をするか!」


 またジークの奴が俺に注意をしてくる。お前もお前で俺の事を見過ぎだろうが!

 俺が抗議の意を込めてジークに鋭い視線を送り返す。ところが、困った事にジークがこれに反応してしまう。こうなるともう止められない。


「再三注意を無視した上に睨み返してくるとは……。いくらあのドラゴニルの娘とはいえど、特別扱いはできないぞ!」


 ジークがキレた。簡単にキレすぎだろうがよ……。

 俺が呆れているにもかかわらず、ジークはものすごくイライラを募らせて俺を見てくる。教官がそんなんでどうするんだよ。言葉に説得力がありゃしねえ!

 気が付けば、もう定番と化した俺とジークの模擬戦が始まる。

 ……またこのパターンかよ。勘弁してくれないかな。

 しかしだ、相当に頭に来ているので、今回も結局ジークと模擬戦をせざるを得なかったのだった。本気で勘弁してくれよ。


「さあ、木剣を手に取れ、アリス・フェイダン。反省しないというのなら、何度でもその性根を叩き直してくれる!」


「あのですね。いくらなんでも私の事を敵視し過ぎではないのですかね。大人げなさすぎて、私の方が懲らしめたくなりますよ」


 ジークの挑発に俺も挑発で返す。やはりここは穏便に暴力で返すべきだよな。

 学生たちも学生たちで盛り上がってくれる。もはや俺とジークの戦いは、この授業の名物と化してしまっていた。


 で、俺とジークの今回の戦いも結局ジークが勝った。だが、段々とジークの勝ち方が怪しくなってきていた。


「くそっ、かなり腕を上げてきたようだな」


「それはもちろん、相手をして下さる方が素晴らしいですものね」


 俺とジークは肩で呼吸をしている。そう、俺はジークをここまで疲弊させるまでに成長していたのである。負けるにしてもただで転んでやるものか。


「はっ、褒めたように聞こえるが、次は倒すという意志が見え隠れしているぞ。……くそっ、さすがはあのドラゴニルの娘だな。はははははっ!」


 ジークは嬉しそうに笑っていた。


 1年の後半の授業は、こうして楽しそうに過ぎていくのだった。

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