第92話 変わり者の集団でしたか
魔法の授業の初日を終えて、俺はとても満足した様子で寮へと戻る。俺のあまりの不自然にご機嫌な様子を見たブレアが、怪訝な顔で俺を覗き込んできた。
「アリスさん? どうなさったのですか?」
「何でしょうか、ブレアさん」
「なんだか楽しそうですので、気になってしまいますわ」
「そうなのですね。実は魔法の授業が地味に楽しみになってしまったのです」
俺はにこにこ顔でブレアに返す。あまりのにこやかさに、ブレアがドン引きするレベルだった。なんだよ、失礼だな。
それはそれとして、魔法を使う際の魔力の扱いというものは、俺の魔物を滅する力を扱う時にかなり近い。なので、魔力の扱いを習う事で、俺の能力ももっとうまく扱えるようになるのではないかと感じたというわけなのだ。
ドラゴニルからもいくらか教えてもらったのは確かなんだが、あいつは教え方が下手だ。感覚的なところが多くて、半分理解できたかどうかすら怪しいんだよな。これだからドラゴンは困ったものだ。
これからの授業を楽しみにする一方、俺には気がかりな事が1つあった。
それは何かと言われたら、魔力測定の時のあの光だ。
測定のための魔法玉に手を置いてから、かなりずれたタイミングで白色の眩いばかりの光が放たれたのだ。気にならない方がおかしいというしかない、不思議な現象だった。
俺が気がかりになる理由としては、散々アピールしてきたとおり、俺には魔力がないという事だった。魔力がないんだから、魔力を測定する魔法玉が反応を起こすという現象自体が説明のできない話なのだ。
とはいえ、その魔法玉が反応を起こすという事は、俺の持つ魔物を滅する力というものは、魔力と似た部分があるという事なのだろう。実際、授業の内容を聞いてもどこか感覚的に似ていたからな。
「アリスさんは魔力なしですわよね?」
「ええ。でも、私の持つ力が、どこか魔法と似通っているのですよ」
「そうなのですか? ……よく分かりませんわね」
俺の話を聞いたブレアが、考える事を放棄した。
だが、話をしている俺の方もよく分かっていない。感覚的なものを分かるように説明するってのは、本当に難しすぎるってもんだ。
「とりあえず、アリス様が何やら楽しそうにしている事だけは分かりましたわ」
うん、とりあえずそれだけ分かってくれればいいよ。説明が面倒すぎるんだ。
公爵令嬢になった事でだいぶ勉強はさせられたものだが、こればっかりはどうにもこうにもならないんだよ。俺の力をどこまで表に出していいのか分からねえからな。
「まあ、お二人とも早いですね」
「何をしてるんだ、二人とも」
セリスとソニアの二人が戻ってきた。俺たちより先に帰ったと思ってたんだが、どうして俺たちより後に部屋に戻ってきたんだ?
「あら、お二人は先に戻られたのではなかったのですか?」
俺も思っていた疑問を、ブレアが先に口に出してくれた。さすがだぜ、ブレア。
「質問があったので、フリード教官のところに行っていたのですよ。それで戻るのが遅くなったというわけです」
「ああ、なるほど」
セリスがわざわざ答えてくれた事情に、俺たちは納得がいった。とはいえ、一体何を聞きに行っていたのだろうか。解決した一方で新たな疑問が湧いたのだった。
「なーに、大した事じゃねえよ。気になる事があったらすぐ解決した方がいいだろ? ただそれだけってわけだよ」
そこにすかさずソニアから発言が飛んできて、俺とブレアはきょとんと目を丸くしたのだった。
「なんだよ、その反応。あたしが何か変な事を言ったか?」
ものすごく不機嫌そうな顔をしながら、ソニアは俺たちを問い質してくる。その時のソニアの表情に、思わず俺たちは一歩引いてしまった。迫力が凄かったのである。ある意味魔物たちより怖かった。
だけど、それだけセリスもソニアも騎士になる事に対して本気だし真剣だという事なのだろう。
俺たちにとっては仲間でありライバルだからな、実に望むところだといった感じだ。
その後の俺たちは、汗を流したり食事をしたりしながら、今後の事をいろいろと話し合ったのだった。
いやまあ、騎士についての話で長々と盛り上がれる貴族令嬢というのは、そんなに多くないんじゃないだろうか。
「正直言って、魔法ってのはよく分からないな。あるには越した事じゃないだろうが、ごちゃごちゃ考えるのは好きじゃないんだよ」
「ソニアさんはあまり魔力量が多くないですものね」
「ソニアさんの場合、体を動かすのが好きって感じですものね」
ソニアが愚痴を漏らしていたが、タイプとしては俺と結構近いタイプだった。
最初の頃からそんな感じはしていたものの、魔法の授業が始まった事で余計に分かりやすくなったという感じだ。
余計な事を考えるよりも、敵をぶっ倒していくのが分かりやすいし気持ちがいいもんだからな。よく分かるぞ、ソニア。ただ、ドラゴニルの影響で脳筋に傾いているはずのブレアが顔をしかめていたのは意外だったがな。
とまあそんなこんなで、俺たちは就寝時間までいろいろと騎士について話し込んでしまったのだった。どうしてこうなった。
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