第63話 今後の授業と日程について
クラス分けが終わると、学園のカリキュラムやら教科書やらが配られる。座学の教科書らしいのだが、なんか分厚くないだろうか。
「フェイダン公爵様のアドバイスや他の騎士団の関係者などから情報を集めて編纂した本だからな。このくらいの分厚さになるのは仕方ないぞ。これだけの重量感があれば筋力もつけられるだろう」
フリードがなんか適当な事を喋っている。重いっていうレベルの話か、これは。
まったく、何をどうまとめ上げればこんな重さになるんだよ。俺の手首並みの厚さがあるし、カバーに使っている布もいい材質だ。学園の教科書にしては装丁が重厚すぎる。こんな脳筋相手にこんなの用意して大丈夫なのかよ。
案の定、全員がその重さに驚いていた。ブレアたちだって目を見開くレベルだった。
「君たちは前線型のクラスに分けられたが、最初の半年は基本的には同じような授業内容だ」
俺たちが教科書の重さに驚いているというのに、フリードはそれに構わず説明を始めている。さて、この中のどれくらいが説明をちゃんと聞いているだろうかな。
俺は当然だが、ブレアたちもちゃんと前を向いて教師であるフリードの話に集中している。さすがだと思うぜ。
ここからのフリードの話は、当面1年間の授業内容についてだった。
座学と実技の授業を行うのだが、入学からひと月経った頃から導入される授業について、みんなの興味を引いていた。
「先生、魔法というのは一体何でしょうか」
そう、『魔法』である。
ここに居る面々の中だと、ブレアだけは確実に使う事のできる特殊な技能だ。
だが、この魔法という力はなにも全員が使えるものではない。俺は使えない事がはっきりと分かっている。ドラゴニルに断言されたからな。
それでも、俺の場合は魔物を滅する力を利用して、疑似的なものを扱う事はできるらしい。身体強化もその一つだ。
そもそも、この身体強化も魔法の一種になるらしいんだがな。どこがどういう理屈で、魔法とは違うのだろうか。俺にはまったく理解できない話だった。
「魔法というのは限られた人だけが使う事のできる特殊な力です」
フリードからも実に身も蓋もないようで、実に曖昧な言葉が飛び出していた。なんとも答えになっていない。
だが、フリードはそれ以上詳しく説明する事もなく、その授業になったら教えますという答えに留まっていた。なんともじらすものだ。学生たちはこの学園内から出る事はできない決まりになっているので、まあ大半の学生が気になって仕方ないようだった。
とはいえ、まだフリードから説明の真っ最中なので、俺たちは私語を慎む。
続けられたフリードの説明では、前線型と後方支援型のクラスでは、前者が実技、後者が座学の時間がわずかに多くなるらしい。とはいっても、授業1回分ずつくらいの差なのだそうだ。
それで、半年が経つ前に半年ごとのまとめとして野外実習が行われるのだそうだ。つまり、そこまでに習ったり練習してきたりした事を、外に出て実践してみせる場というわけだ。この結果次第では、次の半年の間のクラス分けが変わるそうだ。学園長が言っていたのはそういう事らしい。
「それじゃ、これで説明は終わりだ。昨日配った資料の通り、本格的な授業は明日からだ。あと、朝食前に走り込みはあるが、明日からは学園の周回だから安心するといいぞ」
このフリードの言葉に、学生たちの反応はおおよそ半々に分かれていた。落胆しているのは運動したくない面々なんだろうな。だが、騎士となる以上は体力勝負だ。これからは逃れられないだろうな。
「それと、今日の午後は学園内なら自由に散策してもらって結構だ。学園はできたてでまだこの一期生だけとはいえ、将来的には多くの学生を抱える予定だ。思った以上に広いから、迷子にだけは気を付けるんだぞ」
フリードから注意を貰うと、これにて学園2日目は終了してしまった。まさかクラス分けと荷物を渡されて終わるとは思ってもみなかった。
とりあえず全員、重くてたまらない教科書の類を持って自室へと向かっている。俺たちももちろん、同じだった。さすがにこれを置いていくわけにはいかない。席が固定とは限らないし、荷物置き場だってない。それに、一度は軽く目を通しておきたいのでやむを得ない話だった。
そんなわけで、重い教科書を必死になって寮内の自室まで運んだのだった。
「さて、この後はどう致しましょうか」
ブレアがベッドに腰掛けながら、口を開いた。重すぎた教科書のダメージがあるのか、手をぶらぶらとさせている。
「それだったら、とりあえずは最初に食堂へ行きましょう。朝食後からはあまり時間が経っていませんが、朝にあれだけ走った後ですと、あの量では到底足りませんからね」
淡々と話すのはセリスだった。
「あたしも賛成。朝食のあの量じゃ全然足りなかったわ」
ソニアも少々不機嫌気味に足を組みながら文句を言っていた。
そんなわけで、俺たちの午後の最初の行動が決定した。荷物を置いた俺たちは、四人揃って食堂へ向かったのだった。
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