嘘つきの恋♡

三愛紫月

side 拓生

「これで、何回目だよ。いい加減。本当の事言えよ」

「悪い、悪い。ちゃんと焼肉おごるから……翔哉しょうや

「絶対だからな!拓生たくお

「わかってるって……」


幼馴染みの翔哉は、怒りながら帰って行く。

俺は、ある人に嘘をついてる。



「たっくん。私、結婚するの」

「よかったな」

「それで、結婚するから。こうやって、もう会えないよね」

「何で?会えるよ。俺達、友達だろ?」

「そうだよ。だけど、彼はわかってくれないと思う」

「実はさ。ずっと言ってなかったんだけど……俺。ゲイなんだ!!」

「えっ!知らなかった。たっくんは、彼女作らないだけだと思ってた」

「そんなわけないだろ。男が好きとかひかれるかなって思って言えなかったんだ」

「ひかないよ……。男が好きなら彼もわかってくれるかも。結婚パーティーに連れてこれる?」

「えっ……」

「彼氏もいなかった?ごめん、変な事言って……」

「嫌、いるよ。彼氏」


高校からずっと好きだった長山千咲ながやまちさきが、23歳の夏。結婚すると言ってきた。

千咲は、男が出来てはすぐ別れるタイプだったから……。

今回も同じだろうと思っていた。


だけど、違った。

今回は、いつもとは違って結婚する。

ずっと千咲の傍にいたくて……。

気持ちを黙っていた結果がこれ。

正直、振られるより辛かった。


それなのに俺は……。

痛む心を抑えてゲイだと嘘をついた。

それしか千咲の傍にいる方法が見つけられなかったからだ。


そして、彼氏がいると嘘までついてしまった。

千咲の結婚パーティーは、一ヶ月後。

それまでにどうにかゲイの彼氏を見つけようとそれ専門のマッチングアプリを始めてみた。


「素敵ですね。何というか、今時の若者ですね」

「あ、まぁ」

「この後、時間ありますか?裸と裸の付き合いを……」

「いやーー。結構です」


この手のアプリは、体目当てが多い。

さすがにマッチングアプリはないか……。

数人とマッチして会ったけれど、みんな食事した後で、身体の関係を持とうとする。

正直、男とした事もないし、男が好きなわけじゃない俺は……。

どんなにイケメンであってもしたくはなかった。


「あーー、無理だったわ」

「つうか、家は溜まり場じゃない」

「いいじゃん。翔哉」


俺は、幼馴染みの翔哉の元にやってきた。

翔哉は、かなりの変わり者だ。

昼間はサラリーマンをしながら、夜な夜な漫画を書いている。

その漫画は、日常にある嘘を描いていた。


「なぁーー。翔哉」

「何だ?」

「俺を題材にしていいから、俺の彼氏やってくんない?」

「はぁーー。意味わかんねーーよ」

「頼む、この通りだ」


俺は、翔哉に深々と頭を下げる。


「何で、俺が拓生の彼氏にならないといけないの?」

「実は……。千咲が結婚するんだ」

「ずっと友達でいいとか言ってるから、そんな事になるんだよ!馬鹿だな、拓生」

「そうなんだけど……。振られて気まずくなって千咲を失うのは嫌だったんだ」

「そんな事言ってるから、本当に失うんだよ!」

「もういいよ。翔哉には頼まないから!アプリじゃなくて、そういう所行って探すよ」


翔哉なら助けてくれると思ったのに……。

イライラしながら、翔哉の部屋を出ようとした。


「待てよ!わかったって。その代わり、絶対モデルになれよ」

「なるに決まってんじゃん」


翔哉は、漫画家を目指してるのかいないのかは謎だ。

ただ、書いた漫画を休みの日に投稿サイトに投稿している。

最近のお気に入りは、誰にも言えない気持ちって話らしい。


「なぁ、翔哉。最近のモデルの人は好きって言えない人の話だろ?」

「ああ。そうだよ」

「友達として傍にいる男。嘘を突き通す為に結婚した女。兄に恋をしてる女。従姉妹が好きな男……。これってどうやって書いてんの?」

「ああ、それはフォロワーさんに募集してメッセージのやり取りして漫画にしてるんだ。モヤモヤがスッキリするって、みんな喜んでくれるんだ」

「へぇーー。じゃあ、俺も書いてよ!ゲイだって嘘をついた男ってな。その代わり、例の約束」

「わかった!」


翔哉は、俺との約束を守ってくれた。

婚約パーティーで、翔哉を紹介すると千咲の旦那さんになる人は……。


「へぇーー」


とだけ言った。


それだけかよって内心思ったけど……。

千咲と友達でいれるなら、それでよかった。


「寂しくないの?拓生」

「えっ……!!寂しくないって言ったら嘘になるけど。もし付き合えて、別れたら友達ってポジションには戻れないだろ?だから、俺は一生一緒にいる道を選んだんだよ」

「何か、老い先短くなったら爆発しそうだな」

「馬鹿!大丈夫だよ」


俺は、この日を境に何度も翔哉に恋人のフリを続けてもらう事になる。

その度に、翔哉から「本当の事を言えよ」と言われている。

でも……言えない。

言ってしまえば、俺達の関係は終わってしまうから……。



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嘘つきの恋♡ 三愛紫月 @shizuki-r

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