TSメスガキは秒でわからされる。
YB
第1話 秒でTSさせられた。
俺の名前は富士原 さとし
俺には一つ、どうしても叶えたい願いがある――それは。
「もし俺が生まれ変わったら絶対にメスガキになってやる!!」
◇◇◇
そんなことを思ったのは小学三年生ぐらいの時だっただろうか?
俺の家系は不自由が多く、友達と遊ぶこともできず、ただ悶々と勉強をするだけの毎日だった。
だが、そんな毎日を変えてくれたのが「メスガキ」を題材にしたラノベだった。
人が嫌がることを前提としながら揶揄いに行く、自由な性格で誰にも遠慮しないその身勝手さに――俺は心から憧れたのだ。
◇◇◇
夢を追いつつけて八年。つまらない日々を過ごしていくうちに、少し、ほんの少しだが、思ってしまったことがある。
「……あれ? この夢無理じゃね?」
下校途中、不意に考えてしまった。
勘違いしないでほしいが、俺は決して夢を諦めたわけではない。ただ、現実的に考えて男性が女性にTSする確率はどのくらいなのだろうかと計算したに過ぎない。
「はぁ……。帰ろ」
深くため息をついた俺は、注意深く左右を確認し歩道を渡る。この歩道は左側に建物があり見ずらく、車の姿を確認するためには身を乗り出さないと確認することが出来ないのに加え、事故件数がとても多いので渡る際も慎重に。
(……そういえば、提出物のプリント鞄に入れるの忘れた)
やらかしてしまったと後ろを振り返り、学校へと歩みを進めようとした時、歩道の点滅に焦ったのか生後何ヶ月かの子供を抱えた親子がこちらに向かって走りこんでくる姿が見えた。
この歩道で走り込むの危険極まりない行為だ、ちらりと、俺から見て左方向を見ると、案の定。親子たちが進む先には猛スピードで走行している車も見える。しかもご丁寧にハイブリッド車である。
今から声をかけたところで間に合わないだろう。
「……!?」
飛び出した親子たちはようやく車を視認できたのか、驚愕の表情になってその場に立ち尽くしてしまった。
「っ!!」
流石の俺も、せっかく生まれてきた命を見殺すほどの感性は持ち合わせていなかったのか、気がつくと俺の体は勝手に動き出し、親子達を元居た歩道に突き飛ばしていた。
母親らしき人が驚きながらもこちらに振り返ってくるが、その時には俺の体は宙に舞っていた。
ちなみに、最後の最後に親父に鍛えれた拳を使い車に抵抗してみたが――当たり前だが、全く意味をなさなかったらしい。いや本当に何のために俺はここまで我慢してきたんだ……。
宙を舞いながら、俺は最後の気力を振り絞って親子たちの安否を確認する。
(よかった……無事みたいだ)
こんな人生だったけど、最後くらいは人として大切なことが出来たのかな、なんて思いを持ちながら俺、富士原 さとしの人生は終了した――
◇◇◇
――と思っていたら。
(……ん? ここは病院か? ということは俺は助かったのか?)
再び目を覚ますと、目の前に移るのは病院らしき天井。
状況を確認するために首を動かしてみるが、思うように動かない。
(……それだけ重症がということなのか?)
このことが親たちに知られると、多分激怒されるのだろうな。
「車如きに負けるな」ってな。
そう考えると肩身が狭くなってくる。こんな時は寝るに限る!!
(というわけで、おやすみなさI……)
寝るまで後コンマ一秒という時に、病室の扉が勢いよく開き、喊声が響く。
「康子!! 私たちの子供が生まれたと聞いて、仕事を即座に放置して親戚のみんなを連れてきたぞ!!」
いや、知らない人ばかりだし、どんなにいるんだよ。数人どころじゃねーなこれ……数十人レベルじゃねーか!! ていうか仕事放置するな!!
喋れない俺は心中で激しくツッコミを入れていると、マットレスだと思っていたものが動き出し、優しい声色で話しかける。
「そんな大声を上げて……他の人に迷惑でしょう」
「む……それはそうだが……」
至極当然のことを言われているおっさん。ほら、落ち込んでるよ、おっさん。
「それはすまん! それよりも康子よ」
「何ですか?」
「私にも赤ん坊をみたいのだよ」
ん? 赤ん坊?
「あぁ、何気に見せるのは初めてでしたね」
ベットに寝転がっていた女性は、壁を背もたれに俺の体をおっさん達に見せつけるように持ち上げ、宣言する。
「可愛い、可愛い女の子が生まれましたよ!」
「「おぉ!!」
「やったな!」などと、大人達の歓声が響き渡る中、俺は――
(えっ? つまり転生したってこと!? 女の子に? ……普通、神様が現れてお願い事をしてからとかじゃあないの!?)
中々、現実を受け入れられなかった。……あんなにTSしたかったのに、いざ起きてしまうと困惑の方が勝ってしまったのだ。
だが、しばらくするとこの状況にも慣れてきたのか。つい、叫んでしまった。
「
こうして『富士原 さとし』としての人生は終わり、『
その全てが、練習相手だと思っていた一人の女の子に崩されるなんて、思いもせずに――。
◆◆◆ 第一話 秒でTSさせられた。(終)
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