第11話 剣聖杯大詰め

「うちのギルドメンバー…つっよ」


勿論ウラクギルドのことである。

雨音とガラシャ、リシアに最近帰ってきたエヴァ。

全員剣聖杯一回戦勝ち越した。

圧倒的に、相手をねじ伏せて。


「……」

「おい無口、何か喋ったら?」


ローガンはユエのほっぺをつつきながら言う。


「ナルシスト、うるさい。」


ユエは押しのける様にしてローガンを退かした。


「ひっど、いくらイケメンの俺でも怒っちゃうぞ?なあウォゼット。」


ローガンは隣にいるウォゼットにそう言うが、


「計り知れないほど強かった…」

「聞いてねえし、」


全く、この二人はほんといつもこれだ。

ため息をつき、まあいつも通りかと呆れるローガン。


再び、試合に目を向ける。


そんな中、三人の元に忽然と現れた者がいた。

スーザイとユキナである。


『三人とも……帰ってきて、たの?』

「その声は!黒髪カタコトロリ先ぱ……ぐへっ!?」


スーザイのグーパンがローガンに有無を言わさず炸裂した。


発勁のように内側から相当な衝撃が加わっている筈なのにケロッとしているローガン。


「ちょ!俺じゃなければイケメンな顔がボコボコになるところでしたよ!」


結構鈍い音が響いたけど、ローガンは無傷。

ウラク所属のA級冒険者は伊達じゃなかった。


ただ…


「今のはローガンが悪いだろ…」

「……」


ウォゼットは殴られて当たり前だと言いユエもそれに頷き同意する。

ローガンに味方は居なかった。


「三人とも久しぶりね。」


ユキナはそう言いながらスーザイが座った隣に腰掛け座る。


「ユキナ先輩〜!ひどいんですよこいつら!」

「はいはい。」


先ほどの光景を見て若干笑っていたユキナはローガンを軽くあしらう。



「おい、あれウラク一派じゃね?」

「マジじゃん…剣聖杯常連組のウラクかよ、近寄らんとこ。」


そんな中、他の観客達は試合そっちのけで、視線をユキナ達に向ける。


ハイロッドの冒険者でウラクギルドを知らない人はモグリである。

イカれな戦力を保有するギルドであり、ウラク所属というだけで既存のランクの一つ上くらいに見積もっておけという言葉があるくらいだ。


「はあ、なんで避けられるんかな。俺こんなイケメンなのに。」


ローガンは嘆いた。


「おまえ男にモテたいの?」


周りにいる人は殆ど男である。

そんな状態で今の言葉を言ったのだ。

ウォゼットがそう言うのも無理はなかった。


「俺はイケメンだろう?でもチヤホヤされたい訳じゃない。純粋にかっこいいって思って欲しいんだ。だからかっこいいって思ってくれるなら男でも女でも関係ない!」


高らかに、堂々と言い放つ。

相当大きな声で、だ。


「「「「………」」」」


四人はドン引きした。

近くにいた観客たちも同様だった。


やっぱウラクはイカレタ奴しか居ねえんだなと、再確認した観客達。



ローガン=アリアンテは筋金入りの残念イケメンである。

確かに儚げなイケメンでかっこいいのは事実なのだろう。しかし、こんな性格のため近寄る者は殆どいない。


「そんなことより初代剣聖ちゃんは強いねぇ、蛇腹剣をあんなに使えこなせるなんてすごいな、俺と同じくらいかっけぇな!」


ローガンは全く周りを気にせず、再びフィールドで闘っているリシアを見てそんな感想を言う。


「ローガン、頭やばいね」

「あ?」


ローガンのことになると普段無口のユエが口を開く。

それくらいウザいのかはたまた…


ローガンとユエが戯れあっている、というよりちちくりあってる様に見える。


「二人とも、側から見たら恋人同士ね…」

ドゥィ、』


ユキナは二人を見てそんな感想を言い、スーザイもそれに同意した。


その言葉に二人はぴたりと止まり、それぞれ礼儀正しく座る。

二人の顔は真っ赤だった。


「ロリ先輩までなに頷いてるんすか!」

『ロリ言うな…空に、打ち上げる、よ?』


左口角だけあげて引き攣る笑を浮かべるスーザイ。


自分でもわかっている。

この体型が、容姿が…相当幼く見えることぐらい。

それでも、スーザイは自分がロリだなんて認めたくないのだ。


普段は超温厚で知性的なスーザイはロリと言われるとキレる。

スーザイがすぐさま空魔法で打ち上げるため魔力を流した。


「ちょ、冗談じゃないっすか。」


ローガンは慌てて宥める。


『……王都の、高級絵の具店で、油絵具120色のやつ、買ってきて。そしたら許す。』


スーザイはチラシをローガンに見せる。


まじかよ…絵の具で40万ルピもするとかアホか?

心の中でローガンはそう思った。


ローガンからしたら端金だが、それでも絵の具にしては高すぎるだろ、と。

だが…

ローガンはスーザイを怒らせないため渋々了承するしかなかった。




「うちの新しいギルマス、強すぎない……?」


普段は無口のユエが興奮する様に言った。

目で追えない。

A級冒険者である自分たちが捉えられない。

ユキナも同様にその速さに追いつけていなかった。


「相手も百戦錬磨の猛者なのは間違い無いんだけどなあ、」

「まさしく怪物だ。」


ローガンとウォゼットが雨音をそう表する。


実際雨音の動きを正確に捉えられているのはこの中だとスーザイくらいだ。


弾力性のある魔力の壁を作り、技を当ててキャンセル。

ありえない精度の魔力操作だ。

その反発を利用してスイッチを入れたかの様に剣の軌道が変化する。


避けてもすぐに軌道修正が可能。

対象に絶対当たる。

まるで必中の設計図だ。








◆◇








第四回戦準々決勝。


緋月アカツキリシア・レイヴ=グラハム

白銀ハクギンエヴァ=アトラクト


氷剣ヒケンノイラ・レイヴ=アンダイク

戦鬼センキガラシャ=ハイザー


竜狩リュウガリケニー=フォート

星盾セイジュンイーサ=シュライク


天鍛テンダンアラハバキ=アマノマ

瑠璃ルリアマネ=ツルギ





「さあ、残すところあと僅か!準々決勝開幕です!」


リシアとエヴァの二人が中央に立つ。


リシアは蛇腹剣【空牙レーヴァテイン】を、

エヴァは二対の大剣【双巴ふたば】をそれぞれ構えた。


「二人ともウラクギルドに所属する仲間同士。イオリ様はこのカード、どちらに軍配が上がると思いますか?」

「そうだね、パワーは白銀に軍配が上がるかな。ただ、手数の多さは初代剣聖の方だと思うよ。」


刹那、爆発が起こる。

武器と武器の衝突による衝撃波で決壊が壊れかけた。


「凄いわね…スー、決壊を強化するの手伝って。」

『もう、やってる…』


すかさず決壊に新しい決壊を構築するユキナとスーザイ。


「なあユエ、魔法使いってこんな非常識なん?」

「この二人は例外。」


既に完成している術に介入するなんて普通無理だ。

二人は冒険者で自由気ままにやっているが魔法使いとして宮廷魔法使いや塔の賢者と同格、それ以上に魔法が使える。


本来、魔法学校などで卒業した者は塔に入って研究をするかどこかの学校で先生をやるか、誰かに仕えるということが多い。

魔法使いで冒険者をやっている者は変わり者だ。


まあ、スーザイの場合は冒険者をやりながら研究者として活動もしているが…


「それにしても、なんで初代様はA級冒険者なんだ…」


あれどう見てもS級上位の強さだろ、

ランク詐称もいいとこだ。


「リシアちゃんは入ってきたばかりだからね、まあアマネちゃん、現ギルマスはもうS級みたいだけれど…」


雨音はリシアと違って睡眠が必要ない。

つまりずっと依頼をこなし続けていたわけだ。



軌道が絶えず変化する【空牙レーヴァテイン】を二対の大剣で凌ぎ切るエヴァ。


二人に焦りは無い。


情報の処理を正確無比に行い続け、一手一手が強力だ。

捌く、防ぐ。

互角の戦いといってもいい。


が……


先に勝負を仕掛けたのはリシアだった。


「行くよ!」

「来い!」


絶えずフェイントを掛け、本命を仕込むリシア。

それを見事な足捌きで回避し、間合いに潜り込んだエヴァ。


チッ、ジリ貧だなこりゃ…

エヴァは考える。活路を。


ならばこうしよう。


それは一瞬だった。

ノーモーションで片方の大剣を投げる。

音速を超え、果てしない衝撃波と共に大剣はリシアの元へ飛来した。


「やってくれる!」


リシアは己の武器で大剣を絡め取っていた。


「マジかよ、」


あれを反応するのは不可能だ。

ということは予め準備していたということになる。

予測、されたのだ。

リシアが持つ経験と勘が、それを可能にした。


片方の大剣を失い、リシアとエヴァの拮抗は瓦解した。


ならばもう、次の一撃で決めるしか無い。

これ以上長引けば、負ける。

エヴァは自分の戦闘経験からそう割り出す。


透き通る白銀の一閃。

本日の大会で最も高い威力を誇る。


「あは!」


笑った。

最高峰の愉悦。

待っていたと言わんばかりに真っ向からリシアは受けた。


そして……

エヴァの両腕が、吹き飛ばされた。


「クソ、強えなぁ…」


エヴァはそう言いふらつく。

腕がないからバランスが取れないためだ。


「エヴァも強かったよ。」

「それ、勝者に言われたら腹立つヤツだわ。」


そうして、エヴァは敗北を喫した。



「いやー白熱したバトルで私司会感動いたしました!」


司会はこれまでの試合を振り返り語る。

凄まじい攻防。

こんなものを司会という立場からか無料で見させてもらっているのだ。

本当に役得とはこのことなのだろう。


「続いては、こちらも説明不要!六代目剣聖を飾り、不動の地域を気づいた氷剣の異名を持つノイラ!そしてまたしてもウラク所属の冒険者、戦鬼ガラシャ!」


ノイラはレイピアを上に掲げた。

まるで氷のようにも見える透明な刀身は太陽に照らされ、輝きを増す。


一方ガラシャは何も持っていない。

強いていうなら拳につけているガントレットが武器といったところか。


「胸を借りるつもりで行かせてもらおうか!」


ガラシャは拳同士を叩きつけ、人為的な爆発を起こした。


一瞬の目眩し。

相手は格上。小細工無しでは敵わないとガラシャは理解している。


俺は、エヴァやリシア、雨音と比べて圧倒的に弱い。

だが……

負ければ、ウラクの名が廃る。

熱く、粘り強く参ろうか!




「やっぱガラシャ先輩だと氷剣と分が悪いっすね。」

『仕方ない。経験値が圧倒的に…ノイラの方が上。』


水魔法を介した氷結での足止めが上手すぎる。

相手の足場を滑らせて体制を崩し、追い詰めていく。


ローガンは憧れの先輩、ガラシャが何もできずに圧倒されるさまを見て少し歯痒い思いになるが、相手は伝説的な存在なのだ。


仕方ない…

いや、


「応援しないとっすね。」


本人はまだ諦めていない。


「がんばれえええええ!!!!!ガラシャ先輩!!!!!」


もはやノイラが勝つと思ってやまない会場の雰囲気を変えるべく、物凄い声量でローガンは応援する。


「……がんばれ!」


普段は無口のユエが、声を張り上げる。


「勝て!」


ウォゼットも同様に。

寡黙、というかシャイな彼も今ばかりは試合に集中し周りのことなんか全部忘れて言った。


「ほんと、良い後輩だわ。」

ハオ


試合を見届ける。


ガラシャに声援が届き、ギアを一段と上げた。


格上がなんだ。

剣聖がなんだ!


ここで、負けてたまるか!

勝利するんだ…!

かっこいい背中を見せる為に!


「うおおおお!!!」


目標を定め貫くべく、自分自身が一つの弾丸となる。


「これは…厄介ですね、」


いつも冷静沈着なノイラもこの時ばかりは焦る。

荒れ狂う魔力の塊が自分に突進してくるという純粋な恐怖があった。


『戦鬼』の所以を魅せつけた。


衝突しあい、煙で状況が見えなくなる。

一体どちらが勝ったのか…?

全ての人々がごくりと唾を飲み、煙が晴れるのを待った。


「くそ、惜しい…」


ローガンは、煙が晴れていない中言った。

魔力感知で結末を知っていた。


勝者は…ノイラだった。





「ああまじか…」


ガラシャは控え室で目覚める。

横たわっている状況を見るに、負けたのだ。


「やっぱ強いな。」


一歩届かなかった。

ではない…

全然届かなかった。


勝利への糸口があれしか見出せなかった。

だが、一方的に負けた。


「次は勝つ。」


ガラシャの眼は死んでいない。

次の剣聖杯へと闘志を燃やした。








◆◇ーーー








「団長が勝ちましたのね。」


昨日、雨音に負けたイリスは自分の敗北を戒める為、こうして回復魔法を受けずにいてイリスは控え室でこうして一歩も動けない状況だった。


そんな中、画面に映る戦闘を見ていた。


近衛騎士団、団長イーサ=シュライク。

『星盾』という異名を持つまさしく守護に特化した騎士。


そして相手は世界で十三人しかいないS級冒険者の中で序列三位、竜狩ケニー=フォート。


圧巻の攻めを見せたが、最終的にはイーサの守りを崩せず敗れた。


「私も勝ちたかった…」


一回戦敗退。

例え相手が準々決勝に残る強者とはいえ、近衛騎士団副団長としての矜持を示すことができなかった。


ただ私の技量不足が招いた結果。

受け止めなければいけない。


「アマネ=ツルギ様、いつかまた必ずお相手願います。」


そう言ってリシアは拳を握る。


あの鮮やかで鋭い剣技。

魅了されなかったと言えば嘘になる。

指南してほしいくらいだ。


「もうすぐ、アマネ様の番ですのね。」


準々決勝最後の試合。

雨音対アラハバキ。


アラハバキは隻眼の鍛治師でその名を世に知らしめている。

その腕は凄まじく伝説的な武器を作る彼女だが…何故か強い。


本職は鍛治師のはずなのに、強すぎると言ってもいい。

彼女曰く、自分で素材を取ってくるうちに強くなったとか…


繊細な戦闘が得意で、雨音と似たようなものを感じるイリス。


どちらが勝つのか私には分からない。

私より遥かに強い二人の戦闘力を測るなど、到底無理。


「アマネ様、勝ってくださいね。」


画面を見ながらイリスはそう言った。

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