竜仔愛穿つ。-Ryu Ko Ai Utu -
七七七七七七七式(ななしき)
【序章:竜と仔。】
僕の暮らす村から少し離れた森の奥に、大きな石碑がある。
そこは遥か昔、村を守護していた竜のお墓らしく、周りにはシロバの花が咲いて、燦々と煌めく太陽の光がその石碑を照らし出していた。
そこで僕は、とある女性と出会った。
「──人の仔か?」
僕の存在に気付いた彼女は、深くて青い瞳を向け、玲瓏な声をかけてきた。
僕は彼女の、あまりの美しさに見惚れてしまい、暫くのあいだ声を出せなかった。
数秒たち、やっとの思いで発したのは、純粋な疑問だった。
「君は、どうして泣いているの?」
石碑の前で、今にも消え入りそうな様相で佇む彼女は、感情を見せない貼り付けた笑顔を浮かべたまま涙を流していた。
怒りか、悲しみか、憎しみか。
涙を流していても、優しい微笑みを浮かべている事から、彼女がどんな感情を抱いているのかまるでわからない。
そんな彼女は僕の問いに対し、「昔を思い出していただけだよ」と、笑って答えた。
僕には彼女の言った言葉の意味がわからなかったけど、泣いている彼女を放っておけなくて、手を差し伸べた。
「一緒に行かない? 僕の村へ」
「……いいのか? こんな得体の知れない女を連れていって」
「関係ないよ」
僕は首を振って答えた。
「泣いている女の子には優しくしてあげなさいって、父さんから言われているんだ。だからほら、一緒に行こう」
「……そうか」
僕がそう言うと、彼女は恐る恐るといった様子で差し出した手にそっと指を重ねた。
指先から感じられる、確かな熱。
しかしその熱は、今にも失われてしまいそうな程にか弱いものだった。
だから僕は、重ねられた指をしっかりと掴み、互いの指を沿わせるよう優しく握りしめる。
彼女のその熱が、決して消える事が無いように。
「僕はフォリア。フォリア・クアトール。君は?」
「私は……」
名を聞かれ狼狽える彼女は、ゆっくりと口を開いた。
「──テラ。私の名前は、テラだ」
そう言って彼女は、僕の瞳を真っ直ぐに見つめて、笑った。
これが
俺はこの時の事を一生忘れないだろうし、後悔し続けるだろう。
あの時、か弱い熱をこの手で屠り去っていたら、と。
目を閉じた先に広かる業火は、消える事のない心の闇を、ひっそりと照らしていた。
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