第1話 少女の過去

 アリーシェが王立騎士団に所属していた頃、身分が自分よりも上の人と交際していたことがある。その時は年頃だったせいもあり、恋愛をしてみたいと心の何処かで思っていた部分もあったのだろう。

 身分が高く容姿端麗。おまけに良い家柄の跡継ぎであった相手。自分とはどう考えても不釣り合いな異性からの告白にとても舞い上がり。後先のことも考えずその時の気持ちで返答した過去の私は優柔不断とも言えるだろう。


 そんなアリーシェが交際した相手はアリーシェよりも年が6つ程離れていたのだが、とても優しく、紳士的で、物語の王子様のような誰からも好かれる人物であった。

 そんな相手と付き合っていく中で恋の悩みも少なからずあった訳であるのだが、別れを考える程の事ではなかった。そして、そんなアリーシェと相手の恋愛事情を王立騎士団の人間はほぼ知っていた為、自分達が付き合っていることを隠すことなく付き合えた訳である。


 そんな中、自分の周りは王専属の騎士となる為に日々努力し励んでいるのに、恋愛をして自分が本来やらなければならないことが疎かになっている事に気付いたアリーシェは自分に腹が立ち、結局、交際相手と別れることに至ったのだ。

 そんなあまり思い出したくない出来事を用事があり王都へと赴いた先で自分が1番関わりたくないと思っている相手と偶然にも遭遇してしまった後の告白によって思い出してしまった訳であるのだが......


「お前が、ティアナに付いている騎士か。女でありながら剣の腕前はピカイチだそうだな。それにしても可愛い……好きだ」


 目の前にいる男に遭遇するなり、何故か容姿を褒められ、告白されたアリーシェは色々な意味でこの人やばいな、と思わずにはいられなかった。

 アリーシェは本気か冗談半分のどちらで言ったのかわからない告白を右から左へ受け流し、気になったことを目の前にいるこの国の王子である男に問い掛ける。


「はあ……? えっと、サクヤ王子殿は何故、王都へ?」


 金髪に青眼の目の前に立つ綺麗な顔立ちをしたこの男こそ、このリースティアヌ王国の第一王子であるサクヤ・ヴァロラルドである。アリーシェが専属護衛として仕えている第一王女ティアナの異母兄でもある訳なのだが.....

 彼は顔はイケメンなのに、童顔の少女好きであることから、残念な変態王子と認知され、いつしか残念王子、残念な変態王子という異名が広がり、いつからかそう呼ばれるようになってしまった。そんな人物なのである。


 アリーシェはそんな噂は所詮、噂であり、最初はさらさら信じてなどいなかったが、とある一部私事を目撃してしまい。やっぱり噂は本当だったんだと思い至った訳である。


「アリーシェ、聞いているのか? 俺と付き合ってくれ!!」

「はっ.....?」


 目の前にいる相手の言葉にルーシェはそう聞き返さずにはいられなかった。もしかしたら自分の聞き間違いであるかもしれないのだから。


「聞こえなかったのか? 俺と付き合ってくれと言ったんだ」

「いやいや、無理です。唐突すぎて怖いですよ」


 そう返答を返した相手は何故か嬉しそうにニコニコしており、アリーシェは何故か鳥肌が立った。そして早くここから立ち去らなければという焦りに駆られる。


「アリーシェ、はぁ、何て可愛いんだ……!!」


 (うわ、鼻息荒くなってるし、このまま個々に居たら私の身が危ないかもしれない......)


「すいません。サクヤ王子殿、私はこれから行かなければならない場所がありますので、ここらで失礼します」

「待ってくれ! 俺も付き合おうじゃないか」


 その言葉にアリーシェは明らかに嫌そうな顔を取り繕うことなくそのままサクヤに向ける。そもそも何故、こうなった? 事の発端は数時間前に遡る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る