さいごの水
椿屋 蒐
一話完結。
今日も仕事が終わった。
しかし仕事が終わってまでも俺は、同じ会社の人間と、駅までお行儀よく行進をしている。
駅に着けば、乗る路線で組分けがされる。一度組ごとにグループに分かれれば、今度ははじめましての人間とのおしくら饅頭一片倒の運動会が始まる。勿論参加は強制だ。
しかも運動会が終わったとて、家族の迎えも運動会特有のちょっとだけ豪華なご飯も、「頑張ったね」の労いも何もない。こんな運動会が毎日開催されるだなんて、イカれてる。それなのに「先生」は、この運動会について何も教えてはくれない。
「神様なんて」
そう呟いて彼はペットボトルの水を飲んだ。
対岸のホームを眺める。朝はあそこにいたんだなあ、と思いながら、彼は電車の接近を知らせるアナウンスを聞く。
イヤホンがないと不快な轟音とともに、光り輝く二つの目玉が冬の冷たい夜の暗闇を裂く。その輝きに呼応するように彼の内側が膨張する。
その膨張に耐えきれないかのように、彼はよろめいてーーー光る目玉に、喰われてしまった。
彼の唇は湿っていた。
さいごの水 椿屋 蒐 @Sell_Camellia
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