VR世界で始める新生活《New Life》
諏維
プロローグ
プロローグ
2040年3月15日。
三年ほど前に、ゲーム内でも現実とほぼ変わらない生活を可能にした本格的なフルダイブVRが発売され、各ゲーム会社がフルダイブ用のゲームソフト開発に凌ぎを削っていた頃。
発売前から様々なメディアで取り上げられ、日本中で注目を集めていた、とあるゲームが産声をあげた。
その名も『The Earth in Magic』。
フルダイブVRの機能を最大限に生かした完成度の高さに加えて、ファンタジーMMORPGという人気ジャンル選択。しかし、注目されたのは完成度やジャンルではなく、今までに類を見ないゲームコンセプトの独自性である。
発売3ヶ月前に発表され、SNSを大いに沸かせたそのコンセプトが3つ。
「其の一、『The Earth in Magic』の世界には、同時に3000人までしか登録できない。」
「其の二、一度ゲーム内で死んだら、二度と生き返ることができない。」
「其の三、必ず配信をしながらプレイしなければならない。」
そして、この3つをコンセプトとして掲げた『The Earth in Magic』のキャッチコピーは、《異世界で新しい人生を歩もう》である。
初めてコンセプトとキャッチコピーが発表されたときのネットでは、否定的な声もそれなりに見受けることができた。いや、否定的な声よりも心配の声という言葉の方が正しいだろうか。
すでに公開済のプレイ映像は、今までに発売されているVRゲームよりも断然クオリティの高いもの。しかし、逆に言えばそのクオリティの高さは、開発のためにとてつもない費用がかかっていることを意味していた。
ユーザー側は、運営がコンセプトとしてプレイ人数の制限を設けてしまったことで、果たして初期投資額を回収し運営を長く続けることが可能なのかということが心配になったのだ。
しかしながら、その心配は全くの杞憂であった。
少しずつ情報が小出しにされ、徐々に期待を優に上回る詳細が明らかになるにつれて、そういった声も次第にかき消されていったのである。
ここで、もう少しコンセプトについて深堀りしよう。
運営側の目指すところは、魔法や魔物が登場する所謂異世界の具現化である。そのためプレイヤーはキャッチコピーにもある”新しい人生“の通り、ゲームストーリーのいち登場人物としてのプレイが求められ、配信内で現実の話を行うことはタブーであった。
ゲームを起動すると、すぐさま運営が新たに開発した動画投稿サイト「Magical Tube」で強制的にライブ配信が開始され、ゲームを終了するまで自動的に配信が続く。
また、全プレイヤーには1ヶ月に200時間という配信ノルマが課されており、ノルマが達成できなければ自動的にキャラエンドとなってしまう制度も作られていた。
当然のことだが、1日に換算すると7時間弱にも達する1ヶ月に200時間のノルマは楽ではない。しかしながら、ノルマの厳しさをよそに注目度の高さもあり応募は殺到。
同時に3000人という人数制限があるため、配信適正やプレイ希望動機を見極めるための書類選考とオンライン面接が行われ、それを通過した人のみがプレイできる権限を獲得することになっていた。
更にコンセプト其の二の通り、せっかくゲームに参加できても一度ゲーム内で死んでしまうと、それがどんな理由であってもアカウントにロックがかかり、二度とゲームの世界に降り立つことはできない。
再度キャラを作り直すことも禁止されているため、プレイヤーがゲーム内での死を迎えると、待機していた選考通過者が新たにゲームに参加できるという仕組みになっている。
こういった制度や仕組みによって全てのプレイヤーが”もう一人の自分の人生“のように本気になってゲーム内で生活する環境が作り出され、場合によってはドラマや映画よりもリアルで本格的なエンタメを届けることが可能となっていた。
もちろん、それこそが運営側の狙いの一つだったのだが……。
その運営の狙いを体現するためなのか、初期プレイヤーの3000人の中には元々配信経験が豊富なストリーマーも多く含まれていた。
それに伴って「Magical Tube」の配信でも初日から同接の合計が30万人に達するなど、飛ぶ鳥を落とす勢いで盛り上がりを見せる。
歓喜、悲哀、葛藤、別れ、そして成長。
今までになかった本当の意味での人間ドラマに、視聴者はどんどん熱狂していったのである。
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