夏の幕

山野 樹

第1話

明日から夏休み。


少し開けた窓から、むせかえる緑のにおいと予感の風が滑り込んで来る。机にあたった暴れる光で目が痛い。鼻から空気を吸い込み、目をつむって大きく吐き出す。また今年も夏をいただく。


窓際の1番後ろ。最高に心地いい席から、ぼんやりクラスメイトたちを眺めていた。みんなそれぞれの夏に思いを馳せているのを感じる。


そしてきみは、また困ったような笑顔を浮かべていた。声は聞こえない。友達と遊びの計画でも立てているのだろうか。


きみ自身、たぶんわかっていない。自分がそんな表情をしていること。周りの子たちもそんなきみを知っていること。


一生懸命に笑顔でうなづいて、一生懸命に楽しんでいるふりをしている。そこにしか舞台がないかのように、必死に気持ちを合わせている。


大丈夫なのに。ここにもそこにも、たくさんあるのに。ただ少し振り返りさえすれば、きみが主役の舞台は用意されているのに。


きみのための、夏の幕はここで上がる準備ができているのに。

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夏の幕 山野 樹 @kokoro7272

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