第25話 【現代】レガリア
水の都パラディオン────セントラルの執務室でラヴニールとディアから過去の話を聞くシン。話に区切りがついた所で、ラヴニールが淹れてくれた紅茶を飲みながらの質問タイムへと移行していた。
「痛みが無くなって食事も摂れるようになったんだ?」
「はい。痩せ衰えていた身体も月日と共に快復していきました。ですが──」
『何度も言うが呪いが消えたわけではない。
「泉の水だけじゃ間に合わなくなったんだな?」
「魔力供給についてはすぐに解決しました。地天流による魔力操作で泉の水に含まれる魔力を私が抽出し、濃縮した魔力を直接オウガに流し込んだのです」
「おー、なるほど。水を飲み続けるよりはずっと効率がいいってわけだ」
「そうです。そして、私たちは更なる効率を求めました」
「更なる効率?」
『オウガに魔力を供給しても呪いの餌が増えるだけで効率がいいとは言えない。最も効果的なのはツキナギの加護にだけ魔力を供給することだ。加護にだけ魔力を注ぎ込むというのはラヴニールにも難しかった。何も見えない暗闇で一度も壁にぶつからず迷路を踏破するようなものだからな』
「私一人ではどうしても無理でした。そこでディアの協力のもと、オウガはレガリアを発現させたのです」
「今のオウガが纏っているのはお母さんのレガリアなんだよな? それに直接魔力を注ぐってことか」
『その通りだ。詳細は省くが、オウガは既に
痛みを肩代わりする際に繋げた魂のパス。ツキナギの願いによってそのことはディアによって秘匿されているが、加護の摩耗が倍加するというデメリットの他にメリットもあった。それは、ツキナギのレガリア “月華祓” を借り受けることができるというもの。無論レガリアを借り受けるということはツキナギの力も弱まる。つまり加護の力も弱まるということなのだが────
『魔力の供給については解決したが、弱まっていく加護の輝きを取り戻すには人の魂が必要だ。そこで私たちは避けられない戦いに備えて力を磨き続けた』
「ライヴィアとライザールの争いは日を追うごとに激化していき、私たちはこの戦争に参戦する決意をしました。私たち三人の目的の為には戦いは避けられなかったのです」
「オウガは国のために命を使いたい。ラヴィはオウガを助けたい。ディアは神殺しだったよな?」
「ディアによってオウガの受けた呪いがライザールの神テクノスのものであることが分かりました。王国を侵略するライザールの神、オウガに呪いをかけた元凶……そして、ディアの本体であるセルミアを地獄に堕とした悪神。ディアの目的は世界の崩壊を防ぐセルミアの願いに沿ったもの。私たちの目的は合致したのです」
「それが神殺し……ってわけか」
「玉璽保持者でもあったセレナ将軍の協力で、オウガは自身のレガリアにも目覚めることができました。そしてこの時、オウガは未来を予兆する力を得たのです。ここからオウガの導きは始まりました」
『タイムリミットがある中、二人は自制しよく耐えた。約3年間、二人は村で鍛錬を続けたのだ』
ディアの見立てでは10年は保つと言われたツキナギの加護。だが、肩代わりとレガリアの分譲によって実際にはその半分以下の持続時間しかなかった。しかし、慣れぬ力で戦場に出ても敗北は必至。機を待ち、オウガは自身の予知によってギリギリの時間まで自己を研鑽し続けたのであった。
「己を鍛え、情報を集め、戦術を学び、私たちは備え続けました。そして3年後のある日、二国の戦況に大きな変化が生じました。遂に私たちは動き始めたのです」
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