第20話 ラヴニールの決意【前編】
決意の夜が明け、2人が目覚めたのは昼を過ぎてからだった。事前にオウカが村人にお願いしていたらしく、先日の片付けも昼食の用意も、2人が起きた時には済んでいた。
その厚意に感謝しながら昼食を済ませ、ラヴニールは村人の女性にオウカを任せ出かける準備をした。
ラヴニールは反省していた。自分の不摂生や身なりの乱れは、オウカに更なる負担をかけてしまうことに。自分が健康でなければ看病などできるはずもない……そう考えを改め、身だしなみを念入りに整えてから王宮に向けて出発した。
たっぷりの食事と睡眠をとったことでクリアになった頭で、自身の共鳴魔力である血液が全身を駆け巡る感覚に精神を昂らせながら、王宮行きの列車の中でラヴニールは一つの決意をした。
(禁書エリアに行きましょう)
禁書エリアに入る為には、王の再認可と鍵が必要になる。だが、王が戻るまで待つことはできない。例えどんな手段を使ってでも禁書を手にして見せる。
オウカの呪いを解くための鍵がそこにあるかもしれないという希望を抱き、ラヴニールはしっかりとした足取りで王宮へと足を踏み入れた。
ラヴニールはまず騎士団長セレナの元へ向かった。王が持つ鍵の片割れを探す協力を求めにいったのだ。王の私室を勝手に漁るという大罪に顔を顰めるセレナであったが、先日見た王子エルヴァールの容体を思えば、一刻を争うというラヴニールの願いに応えざるを得なかった。
人を払い自分の腹心であるアリアナという名の女騎士にも協力させ、鍵を求めて三人は王の私室を懸命に探っていた。
「ひえぇぇ〜……生きた心地がしないんですけどぉ〜」
「慣れているだろうが。ボヤく暇があるなら手を動かせアリアナ」
後にタルタロス砦攻略戦において、【シルフィ騎士団 団長】としてセレナと共に戦うことになる女騎士アリアナ。ピンク色の髪を二つのお団子にし、派手な化粧をした顔を歪めながら渋々と国王の机を物色している。
「もしバレたら極刑ですよぉ……今から入れる保険とかないですかねぇ」
「
「ひでぇパワハラ……陛下の机からエロ本とか出てきたらどうしますぅ?」
「陛下も男だ。艶本の一つや二つどうってことない」
「あ゛ーーッ!? 引き出しからセレナ様の写真が!!」
「なッ、なんだと!!?」
頬を赤らめ驚愕するセレナ。そんなセレナを見たアリアナが、引き出しから取り出した写真をヘラヘラと笑いながら掲げる。
「……と思ったらぁ、知らないおっさんの写真でしたぁ。メンゴメンゴ、アリアナちゃん早とちりしちゃったぁ」
舌を出しながら写真をぴらぴらと扇ぐアリアナ。ちなみに写真の男の正体は、パラメル連合国という多数の国が集まった連合体の現国王であった。
「ごぼぇッ────」
セレナの鉄拳がアリアナの腹部に炸裂していた。アリアナの鎧は砕け、床に破片を散らばしながらその場に膝をつく。
「セレナ将軍ッ、アリアナ様も……もう少しお静かに。あとゴミを出さないようにお願いしますッ」
「す、すまぬラヴニール。この馬鹿には後でよく言っておくから」
「いってぇ〜。本気で殴るんだもん……冗談じゃん、冗談〜」
口を尖らせながら砕けた鎧の破片を集め始めるアリアナ。
(……タフですね、アリアナ様。鎧は必要ないのでは……)
セレナの剛拳をまともに喰らいながらもすぐに動き始めるアリアナのタフネスを称賛しつつ、ラヴニールも破片集めを手伝うことにした。屈んだラヴニールの耳元に、アリアナが顔を近づけてくる。
「ラヴやん〜、ゴリラの躾がなってないよ〜」
「き、聞こえますよッ」
ボソリと囁くアリアナの言葉にラヴニールは慌てた。だが幸いセレナには聞こえてなかったようで黙々と鍵探しを続行している。
王の私室を勝手に漁るという大罪……そんな緊張の中、昨日までの自分ならこのアリアナの所業に耐えられなかっただろう。だが今は、その所業が罪悪感を和らげてさえくれている。これもアリアナなりの気遣いなのかもしれない……そう思えるほどにラヴニールの精神は回復していた。だが────
「見たぁ? さっきのセレナ様の顔……ぷぷ、エリン(エリンシア)とフィリー(フィリア)にも教えてやろう」
(い、生きた心地がしませんッ────)
破天荒なアリアナに精神を削られていくラヴニールであった。
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