タツノシン

コーポ6℃

第一章【甲編】 子供と老人

第1話 2人のプロローグ

「いやぁ〜、遂にこの日が来たなぁタツ!」

 

 ニコニコと上機嫌に語りかけてくる青年。目つきは鋭く、オールバックで纏められた赤みがかった金髪に、180cmを超す身長。一見するとヤンキーそのものなこの男の名前は “星宮ほしのみや しん“ 。

 “星森ほしもり たつ“ こと僕の幼馴染であり、大親友だ。


「そうだねシン。続きがずっと気になってたもんね」


 シンの笑顔にこちらもつい笑顔になってしまう。


 シンに比べると、僕は身長165㎝と小柄、顔つきも中性的と言われ、シンのような男らしさがない。完全に名前負けしている。まぁ、唯一髪だけは僕も茶髪にしてるけど。

 見た目も性格も、真逆と言われる僕達。凸凹コンビと揶揄されることもあるけど、僕達は何故か気が合った。


 大学の帰り道、僕とシンは夕暮れ時の住宅街を歩きながら、今日発売されたゲームの続編について会話を楽しんでいた。


「あれだけ気になる終わり方だったのに、3年も音沙汰無しだったもんな。無事発売されてホントによかったぜ!」


 シンは笑顔で頷きながら、手をカバンに忍ばせる。そして小さな袋を取り出すと、その中には新しいゲームのパッケージが輝いていた。


「見ろよタツ! 2だぜ "2" !」

 

 シンに続いて、僕もパッケージを手に取る。確かに……待ち望んでいた続編が目の前にある。その事に胸の高鳴りを抑えることができない。


「ご飯も食べたし、シャワー浴びたらすぐやろうか!」

 

 モチのロンと元気よく返事をするシン。帰り道の小道には、明かりが灯り始めていた。街並みが夜の訪れに包まれる中、僕とシンは家へと到着する。


「じゃあまた後でね」

 

 向かいにある家に入るシンを見送ってから、僕も家に入る。母親に軽く挨拶をし、すぐシャワーを浴び2階にある自室へと向かう。


 スマホを見てみると、既にシンから準備OKの連絡が来ていた。シャワーを浴びる前にゲームのインストールを行っていたのだろう。しまったと思い、すぐゲーム機にソフトを入れ、シンとの通話の準備をする。


『もしもーし、久しぶりぃ!』

 

 テンション高くシンが応答する。

 

「ごめんよシン……今インストールし始めたんだ。もう少しかかりそう……」

『いいよ別に。キャラ作っとくわ!』


 まるで気にしないシンに、安心と少しの罪悪感を感じながらゲーム画面を見直す。


 

 《エデンスフィア2》

 

 マルチプレイ対応のRPG。前作はシンと苦労しながらクリアした。そのゲームの続編をまた2人でやれることが素直に嬉しい。


 待たせていることに少々焦りながらインストールの進捗を示すメーターを見つめる。……しかし後もう少しという所で、メーターが全く進まなくなっていることに気付いた。


「あれ、止まってる??」

 

 コントローラーを手にし操作してみるがまるで反応しない。どうやらフリーズしてしまったようだ。


「えぇ……こんな時に」

 

 泣きそうな気持ちを何とか抑え、シンに事情を説明しもう一度インストールをやり直す。


 だがまた同じところでフリーズしてしまい、ゲームをインストールする事が出来ない。ネットで情報を調べてみたが、発売したばかりのゲームのせいか不具合の情報などは全く載っていない。


 4度目のインストールに失敗した時、既に通話を始めてから1時間以上が経過していた。


『ゲーム機本体が原因か? 俺は問題なく出来てるしなぁ』

「ごめんよシン……僕のせいで」


『気にすんなって。しかし何だろうな、マジで』


 シンに謝りながら5度目のインストールを見守る。しかし残酷にもまた同じ場所でフリーズしてしまう。帰宅中のあの気持ちはどこへ行ってしまったのか……僕は絶望の縁に立たされた様な気持ちとなっていた。


「シン、申し訳無いけど今日は無理そうだ……先に始めててくれない?」

『何言ってんだよ、2人でやろうって言ったじゃんか』


「でも――」

 

 我ながら情けない声だったと思う。声が震え言葉に詰まる。既に心の中はシンに対する罪悪感でいっぱいだった。


「ホントにごめん……」

『ちょっと待ってろ』


 通話を切ろうとした僕より早くシンが通話を切ってしまった。しばらくすると、向かいの家のドアが開く音がし、我が家の呼び鈴が鳴った。母親が対応してくれているようで、何やら階段のところで話している。


 程なくして、シンが大きな紙袋を手に提げ僕の部屋に入ってきた。


「よう! 待たせたな!」

「シ…シン、何その荷物は?」


「ゲーム機持って来た。お前の調子悪そうだし、このゲーム画面分割もできるしな!」


 そう言うとシンはゲーム機の配線を繋ぎ直し始める。淡々と行動するシンに呆気に取られながらも、どこか安心している僕がいた。


 

「えと…母さんと何か話してたの?」

「ん? ああ、いや別に。お前のことよろしくってさ」


 よろしく、って……一緒にゲームしに来ただけなのに大袈裟な。まぁ、実際色々と手を焼いてもらってるんだけど。


「よし!準備できたぞ!」


 シンがゲームの準備を終えたようで、コントローラーの1つを僕に渡してくる。


「あ、ありがとう」

「インストールは終わってるし、さっさとキャラクリしようぜ」


 ゲームを起動し、画面分割での2人プレイを選択し、キャラクター作成が始まる。ここまで意見を言う間もなく流されてしまったが、もう何も言わず一緒にやるのが吉だろう。



 ────昔からそうだ。シンはいつも僕を気遣って、お菓子も、おもちゃも……何でも僕に分け与えてくる。見た目は怖いけど、どこまでも優しい――そんな男だった。


 

「僕、キャラクリって時間かかるんだよね。どうしても迷っちゃうなー」

「何なら俺が作ってやろうか?」

 

 シンがニヤリと笑いながら問いかけてくる。

 うーん、確かにそれも面白いかもしれない。シンの作ったキャラで冒険するのも悪く無いかも。


「じゃあシンのキャラは僕が作ってあげるよ!」

 

 自分以上にシンのことを見ているから、シンのキャラならすぐにイメージが湧いて作れそうだ。


「お、じゃあお互いのキャラを作ってみるか!」

 

 そう言ってコントローラーを渡してくるシンに、僕も持っていたコントローラーを渡す。コントローラーを受け取ると、シンは早速キャラ作成に取り掛かる。今までの遅れを取り戻すかのように、僕もキャラ作成を開始する。


 

 ――キャラ作成開始から数分後


「おいおい!ジジイじゃねぇかよ!!」

 

 笑い混じりのシンの声が部屋に響き渡る。


「何言ってるんだよ!見てよこの引き締まった筋肉、まさしく歴戦の猛者って感じでしょ?」

 

 僕が作り上げたキャラは、白髪に白髭、そしてその老人の外見に似つかわしくない筋肉を搭載した格闘家というキャラだった。見た目で言えば、シンをそのまま老けさせた感じだ。


「僕のなんて幼女じゃないか!戦えるのこれ!?」

「バカやろう!どうせ一緒に冒険するなら可愛い方がいいだろ? あと、一応男だ」

 

 シンの作り上げたキャラは、幼女……ではなく、竜人の男の子という設定のキャラだった。金色の髪は長く、パッと見女の子に見える。年齢で言うなら5歳程度にしか見えない。


「人間じゃないのか……」

「そっちの方がステータスにボーナスが付くんだよ」


 まぁ見た目は人間だし、人外が嫌いなわけでもない。別にいいか、と納得する。そもそもお互いにキャラ作成を任したわけだから、文句を言うつもりもないけど。


「じゃあ、キャラもできたしさっさと始めようぜ」

 

 まるで焦っているかの様にシンが急かしてくる。


「うん、それじゃ始めようか」


 僕も手に持ったコントローラーを握りしめる。楽しみに待っていたゲームの続編とはいえ、ここまで胸が高鳴るものなのか。一握りの不安も抱えつつ、ゲームの開始ボタンを押す。


 シンのキャラは光を纏い、僕のキャラは翼を生やし火を吹く。

そして画面が暗転していく────






 大丈夫 2人なら きっと乗り越えられる


 今までも そしてこれからも――――

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