タツノシン
コーポ6℃
第一章【甲編】 子供と老人
第1話 二人のプロローグ
大丈夫 二人なら きっと乗り越えられる
今までも そしてこれからも────
☆ ☆ ☆
「いやぁ〜、遂にこの日が来たなぁタツ!」
ニコニコと上機嫌に語りかけてくる青年。目つきは鋭く、オールバックで纏められた赤みがかった金髪に、百八十㎝を超す身長。
一見するとヤンキーそのものなこの男の名前は 【
「そうだねシン。続きがずっと気になってたもんね」
シンの笑顔に僕もつい笑顔になってしまう。
シンに比べると僕は身長百六十五㎝と小柄、顔つきも中性的と言われ、よくブロンドの女の子に間違われる。正直言って完全に名前負けしている。
見た目も性格も真逆と言われる僕たち。凸凹コンビと揶揄されることもあるけど、僕たちはとても気が合った。物心ついた時からずっと一緒で、大学生になった今でもこうしてつるんでいる。
大学からの帰り道────僕とシンは夕暮れ時の住宅街を歩きながら、今日発売されたゲームの続編について会話を楽しんでいた。
「あれだけ気になる終わり方だったのに、三年も音沙汰無しだったもんな。無事発売されてホントによかったぜ!」
シンは笑顔で頷きながら手をカバンに忍ばせる。そして小さな袋を取り出すと、その中には新しいゲームのパッケージが輝いていた。
「見ろよタツ!
シンに続いて僕もパッケージを手に取る。確かに待ち望んでいた続編が目の前にある。その事に胸の高鳴りを抑えることができない。
「ご飯も食べたし、シャワー浴びたらすぐやろうか!」
モチのロンと元気よく返事をするシン。帰り道の小道には明かりが灯り始めている。街並みが夜の訪れに包まれる中、僕とシンは家へと到着した。
「じゃあまた後でね!」
向かいにある家に入るシンを見送り、僕も足早に家に入った。母親に軽く挨拶をし、すぐにシャワーを済ませ二階にある自室へと向かう。
スマホを見てみると既にシンから準備完了の連絡が来ていた。シャワーを浴びる前にゲームのインストールを行っていたのだろう。「しまった」と思い、手早くゲーム機にソフトを入れシンとの通話の準備をする。
『もしもーし、久しぶりぃ!』
テンション高くシンが応答する。さっきぶりなんだけどね。
すごく楽しみにしてたもんなぁ。僕もインストールしながらシャワーにすればよかった。
「ごめんよシン……今インストールし始めたんだ。もう少しかかりそう……」
『いいよ別に。キャラ作っとくわ!』
まるで気にしないシンに少し安心して、僕はゲーム画面を見直した。
【エデンスフィア Ⅱ 】
マルチプレイ対応のロールプレイングゲーム。神様が作ったという世界で、主人公たちは星の命運を懸けた戦いに巻き込まれていく。
前作はシンと苦労しながらクリアしたなぁ。かなり重厚なストーリーで、次回作を匂わせる形でエンディングを迎えたから続きが気になっていた。そのゲームの続編をまた二人でやれることが素直に嬉しい。
待たせていることに少々焦りながらインストールの進捗を示すメーターを見つめる。でも、後もう少しという所でメーターが全く進まなくなっていることに気付いた。
「あれ、止まってる?」
コントローラーを手にし操作してみるがまるで反応しない。どうやらフリーズしてしまったようだ。
「えぇ……こんな時に」
泣きそうな気持ちを何とか抑え、シンに事情を説明しもう一度インストールをやり直す。
でもまた同じところでフリーズしてしまい、ゲームをインストールする事が出来ない。ネットで情報を調べてみたけど、発売したばかりのゲームのせいか不具合の情報などは全く載っていない。
四度目のインストールに失敗した時、既に通話を始めてから一時間以上が経過していた。
『ゲーム機本体が原因か? 俺は問題なく出来てるしなぁ』
「ごめんよシン……僕のせいで」
『気にすんなって。しかし何だろうな、マジで』
シンに謝りながら五度目のインストールを見守る。しかし残酷にもまた同じ場所でフリーズしてしまう。帰宅中のあの気持ちはどこへ行ってしまったのか……僕は絶望の縁に立たされた様な気持ちとなっていた。
「シン、申し訳無いけど今日は無理そうだよ……先に始めててくれない?」
『何言ってんだよ、二人でやろうって言ったじゃんか』
「でも……」
我ながら情けない声だったと思う。声が震え言葉に詰まる。僕の心の中はシンに対する罪悪感でいっぱいだった。
「ホントにごめん……」
『ちょっと待ってろ』
これ以上は……そう思い通話を切ろうとした僕より早くシンが通話を切ってしまった。しばらくすると、向かいの家のドアが開く音がし、我が家の呼び鈴が鳴った。母親が対応してくれているようで、何やら階段のところで話している。
程なくして、シンが大きな紙袋を手に提げ僕の部屋に入ってきた。
「よう! 待たせたな!」
「シ…シン、何その荷物は?」
「ゲーム機持って来た。お前の調子悪そうだし、このゲーム画面分割もできるしな!」
そう言うとシンはゲーム機の配線を繋ぎ直し始める。淡々と行動するシンに呆気に取られながらも、どこか安心している僕がいた。
「えと、母さんと何か話してたの?」
「ん? ああ、いや別に。お前のことよろしくってさ」
よろしく、って……一緒にゲームしに来ただけなのに大袈裟な。まぁ、実際色々と手を焼いてもらってるんだけど。
「よし!準備できたぞ!」
シンがゲームの準備を終えたようで、コントローラーの一つを僕に渡してくる。
「あ、ありがとう」
「インストールは終わってるし、さっさとキャラクリしようぜ」
ゲームを起動し、画面分割での二人プレイを選択しキャラクター作成が始まる。ここまで意見を言う間もなく流されてしまったけど、もう何も言わず一緒にやるのが吉だろう。
昔からそうなんだ。シンはいつも僕を気遣って、お菓子も、おもちゃも……何でも僕に分け与えてくる。見た目は怖いけど、どこまでも優しい────そんな男だった。
「僕、キャラクリって時間かかるんだよね。どうしても迷っちゃうなー」
「何なら俺が作ってやろうか?」
シンがニヤリと笑いながら問いかけてくる。
うーん、確かにそれも面白いかもしれない。シンの作ったキャラで冒険するのも悪く無いかも。
「じゃあシンのキャラは僕が作ってあげるよ!」
自分以上にシンのことを見ているから、シンのキャラならすぐにイメージが湧いて作れそうだ。
「お、じゃあお互いのキャラを作ってみるか!」
そう言ってコントローラーを渡してくるシンに、僕も持っていたコントローラーを渡す。コントローラーを受け取ると、シンは早速キャラ作成に取り掛かる。今までの遅れを取り戻すかのように、僕もキャラ作成を開始する。
────キャラ作成開始から数分後
「おいおい! ジジイじゃねぇかよ!!」
笑い混じりのシンの声が部屋に響き渡る。
「何言ってるんだよ! 見てよこの引き締まった筋肉、まさしく歴戦の猛者って感じでしょ?」
僕が作り上げたキャラは、白髪に白髭、そしてその老人の外見に似つかわしくない筋肉を搭載した格闘家というキャラだった。見た目で言えばシンをそのまま老けさせた感じだ。結構上手く再現できたんじゃ無いかな?
「僕のなんて幼女じゃないか! 戦えるのこれ!?」
「バカやろう! どうせ一緒に冒険するなら可愛い方がいいだろ? あと、一応男だ」
シンの作り上げたキャラは、幼女……ではなく、竜人の男の子という設定のキャラだった。金色の髪は長く、パッと見女の子に見える。年齢で言うなら五歳程度にしか見えない。
「人間じゃないのか……」
「そっちの方がステータスにボーナスが付くんだよ」
まぁ見た目は人間だし、人外が嫌いなわけでもない。そもそもお互いにキャラ作成を任したわけだから、文句を言うつもりもないけどね。
「じゃあ、キャラもできたしさっさと始めようぜ」
まるで焦っているかの様にシンが急かしてくる。僕のせいで待たせちゃったしね。
「うん、それじゃ始めようか!」
僕も手に持ったコントローラーを握りしめる。楽しみに待っていたゲームの続編とはいえ、ここまで胸が高鳴るものなのか。一握りの不安も抱えつつ、ゲームの開始ボタンを押す。
シンのキャラは光を纏い、僕のキャラは翼を生やし火を吹く。
そして────世界が暗転した。
☆ ☆ ☆
────何も見えない。真っ暗だ。
あ、目を閉じてるからか。僕は寝てるのか。後頭部にゴツゴツした硬いものを感じる。なんか焦げ臭い匂いがするし、ボコボコと泡立つような音も聞こえる。
まるで夢の中のようなふわふわとした感覚……僕はうまく動かない身体を何とか起こし辺りを見回した。でも、薄暗いせいなのか視界が霞んでいるからなのか、よくは見えない。
それにしても暑い……何なんだろうかこの暑さは。ハロゲンヒーターで囲まれているかのような暑さに危機感を覚え、僕は目を擦り再度状況を確認した。
それは夢か現か────僕の目の前には燃え滾るマグマが泡立ち、赤い光と共に内包した熱を容赦なく浴びせてくる。その非現実的な光景に、僕はお決まりのような言葉を口にした。
「……ここどこ?」
────こうして僕たち
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