第109話 一時帰国5



チュンチュン…






「……えっ?」


「おはよう、やよちゃん。」


早坂さんは下の名前をやよいという。

昨日の夜じっくり語り合った結果、やよちゃんとお呼びすることになった。



「私、昨日の記憶全くないんだけど…。」


「昨日はすごかったね。」


「えっ!?」


「いや、もうすっごい。」

正直にいうとなんも無かった。


早坂さんは頭を抱えていた。


「私大学生抱いちゃったのかぁぁ〜……。」


「まぁまぁ、」


「あんたがかっこいいことするからいけないんでしょうが……。」


どうやらバーの記憶まではだいたいあるらしい。

誤解を訂正してもいいのだが、面白そうなので放っておくことにする。


「今日はなにする?」


「あんたはなんでそんなけろっとしてんのよ。」


「まぁやよちゃんといると楽しいからまぁいいかなって。」


「……。もー、ほんとに…。どこでそんなの知ったんだか…。

朝ごはん作ってくる…。」



早坂さんの顔が赤かったのは見逃さない。

私じゃ無かったら見逃しちゃってたね。




「そういえば、帰りのフライトいつなの?」


「3日後の夜便だね。」


「帰りもウチの会社?」


「うん、ビジネスクラス。」


「あ、ほんと?また同じ便じゃん。」


「あ、ほんとに?楽しみだね。」


「ばっ、そんなんじゃないわよ!」


「それまで休み?」


「まさか。明日明後日で上海往復で、ニューヨーク行って丸2日休み〜。」


「なかなかハードだね。」


「でしょ?いたわってよね。」


「昨日あんなハードなことしといて?」


「どんなことしたの!?私!?!?」

やよちゃんは面白い。


「まぁまぁ。」



せっかくなので、羽田空港に行った。

服は昨日着てたやつだけど、ちゃんと洗濯してある。

昨日寝る前にちゃんとやよちゃんが洗濯して乾燥もかけてくれてた。

記憶ないほど酔ってたのにしっかりしたもんだ。




「久々に来るわー。」


「仕事の時は毎日来てんじゃないの?」


「それは従業員としてくるわけだから。

今日はお休みのプライベート。

入社したての頃はよくこの展望デッキ来てたよ。

でも国際線専門になって、それ以来。忙しくってね。」


「なるほど。飛行機好きらしいね。」


「そりゃもう。」




そのあと、やよちゃんからいろんな話を聞きながら飛行機を眺めて、ランチして解散した。

やよちゃん明日早いしね。



解散したはいいがすることもなかったので、赤坂のスタジオに向かう。

突撃訪問というやつだ。



「あ、なんもなかったって誤解解くの忘れてた。」

まぁいっか。



そしてやってきたスタジオ。

ウーのメンバーはちゃんとまだ練習してたらしい。



「お疲れ様でーす。」


「「「「!?!?!?」」」」


「差し入れ持ってきましたよー」




差し入れの中身は麻布の鯛焼き。

ここの鯛焼き美味しいんだよなぁ。




「ありがとうございます!」


「食べたら合わせましょうか。」

みんなの手が止まった。



「食べなければ…?」.


「合わせなくて済む…?」


「じゃ今から合わせますか?」


「わー!美味しそうだ!」


「早く食べたいなぁ!!!!」


そんなに私の前で合わせるの嫌かな?






結局そのあとゴリゴリにしごいてやった。


みんなが疲労困憊になってヘロヘロになって、死んだ目をしている。

「皆様、お疲れ様でした。」


「「「「うぅ…」」」」


「お疲れのところ申し訳ありませんが、ここでマネージャーさんからご報告です。」


「はい、ご報告いたします。


実は、今回藤原先生からいただきました新曲、Tokyo Undergroundですが、映画とのタイアップが決定しました!!!」




「「「「!?!?!?!?」」」」



「実はMa'am Wooさんが映画主題歌のお話をいただいてて、その曲を私が依頼されてっていう話だったんです。

で、もともと昨日も今日もスタジオに来るっていう話じゃなかったんですけどたまたま偶然が重なりまして、曲を手渡しできたという運びですね。」


「そうなんですね!」


「ちゃんと制作サイドのGoも出ましたので皆様に発表させて戴きました。」


メンバーのみんなは口々に喜びを表している。


「とりあえず短期合宿はこれで終わりですけど、もしクオリティが下がるようなことがあれば、ね?」


「もちろんです!」


「先生のご恩は忘れません!」


「その言葉忘れませんからね?よろしくお願いしますよ。」



もともと、この話を受けたのもウーのメンバーがちゃんとgone windを育ててくれていたからだ。


この人たちならちゃんと曲を可愛がってくれるという思いがあったからこそ受けた話。




きっと次のTokyo Undergroundも育ててくれるだろう。




そんな期待を胸に私は家に帰る。

ウーの事務所の社長の車で。



「こんないい車なのに、家の住人用駐車スペースに入ると逆に浮いちゃうんだよなぁ〜。」


ウルスとかカリナンとか止まってるし。

この界隈だとスカイラインもよくみる。

富裕層に爆売れしてるって本当なんだなぁと実感した。



駐車場に車を止めて、荷物を持って下りようとしたところでスマホを見るとメッセージが来ていた。


「ん?誰だ?」

メッセージの送り主はひなちゃん。

もし帰国してるんならご飯でもどうですか〜って。


「うーん、ひなちゃん。」


色々と後ろめたいというか。

ひなちゃんと男女の付き合いはないし、やよちゃんともなにもやましいことはしてないのだが、なんとなく後ろめたい。


まぁここでやよちゃんの名前が頭に浮かぶあたりがダメダメだよなぁ、私って。



てかなんでバレてんのかなぁ…。

特に怒ってるわけでもなさそうなのが余計に怖いよなぁ。


まぁ正直に行こうか。


そこはちゃんと、帰国してるからぜひご飯行こうっていう内容のメッセージを送った。

日取りは明日の夜。


さいごに、幸祐里にも連絡してやれって言われたので連絡しておく。


『もしもし、幸祐里?』


『なに。』

うわー、怒ってるわぁ〜…。



『今日本帰ってるからご飯いかね?』



『…いいけど。』


『オッケー、じゃ今からお前んち行くから。1時間後な。』



『は!?もうなかなか夜深いけど!?』


『私アメリカ時間で動いてますので。じゃ、よろしく〜。』


『ふざけんn』プチっ






こういう時は相手の予想を超えていくのがポイントだよな。

ペースを握らせないというか。

違う土俵にあげちゃうというか。




せっかく車を止めたが、そのまま駐車場を出て行く。

幸祐里の家は阿佐ヶ谷なのでちょうど1時間くらいで着くでしょう。

そんな深夜に女の子を連れ出すのは申し訳ないが、許してくだされ。



まぁこんな時間だしドライブでも行くか。

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