第107話 一時帰国3


タクシーの車中で考える。




今日の夜赤坂で早坂さんとご飯だけど間に合うかな?

いや、都合よくスタジオも赤坂だし間に合うように巻きで激詰めしよう。


この瞬間Wooの未来は決まった。


伝えられていたスタジオに入ると既にメンバーは臨戦態勢。


なんでも集合の1時間前には全員来て音出し音合わせをして、集合時間にはすぐに始められる態勢を整えてくれていたらしい。



え、なんかみんな私のことビビリすぎじゃない?




「「「「おはようございます!!!!」」」」


「お、おはようございます。」


気合入りすぎててこっちがビビるわ。

なんかスタジオのスタッフさんも私のことビビり始めてるし…。


そりゃそうか、売れっ子紅白バンドここまで締めてるって怖いよな。



「じゃ、早速gone windから。」



「「「「はい!!!!」」」」


いつも通り調整室でヘッドホンをして演奏を聴く。

彼らと時間を共にすることで、スタジオの使い方にも慣れた物である。


イントロが始まる。


うんうん、いいじゃん。

ちゃんと練習してる。


これまで数々のトップアーティストを見てきたスタジオのスタッフさんもうんうんとうなずいており、感心している様子だ。


そして、曲が終わる。


「はい、お疲れ様でした。」


メンバーの表情は固い。

緊張しているのだろうか。

スタッフさんも固唾をガブ飲みしてる。




「まず、一言。

この子をちゃんと育ててくれてありがとうございます。」



一気にメンバーの顔がほっとしたものに変わる。



「ということで、さらなる進化を促すために気になった点をいくつか。」




またメンバーの顔が強張る。

コロコロ表情が変わって楽しい。


そうやって何曲かこなしていくとあっという間にお昼だ。


「そろそろお昼休憩にしましょうか。」


メンバーの目からはハイライトが消えてもう何時間か経つ。

お昼休憩ということでやっと目に力が戻る。



「あと、これ、お渡ししときますね。」


Syunさんにプレゼント。


「こ、これは!!!!」


モノは新しい楽譜だ。

このためにちゃんと新曲書いてきましたよ〜。

といっても、もっとレベルが上がったらお願いしようと思ってたんだけどね。

ちゃんと進化してらっしゃるし、いいかなと。

あとサプライズもあるんだけど、これは秘密。



「午後一発目、1時ごろから合わせますね。」


メンバーが固まる。


「大丈夫ですって!

ざっくり!ざっくりでいいんですから。

ね?雰囲気だけ!」



「いや、ちょっと僕今日食欲ないんでお昼大丈夫ッス…。」


「あ、私もダイエットで…。」


「俺も…。」


見え見えの嘘を貴様ら…!

新曲早く弾きたいだけだろ…!

まったく練習熱心なんだから!




「私、みなさんとご飯食べたかったな…。

でも、食欲ないなら…。」


「あぁ!!」


「冗談です先生!!」


「ご飯いきましょう!ご飯!」


「いやぁ楽しみにしてたんだよなぁ!先生とご飯!」




この後12時55分くらいにスタジオに戻った。






「さて、じゃあ合わせますか!!」


楽譜を見たメンバーは死んだ目をしている。

ちなみに新曲はgone windより難しい。

リズムが変則ビートなのでドラムとベースが死ぬ。


キーボードは私がちょっといやだなと思うレベルで変拍子と修飾音符がついているので死ぬ。

ギターはテクニック盛りで死ぬ。

ボーカルはギターとキーボードだが、音域が開く、上がり下がりもいっそ清々しいほどなので死ぬ。


結果みんな死ぬ。


みんな2〜30分昼削って自分で練習したそうにしてたけど、

そんなのしたところで出来ないって。

だからみんなで一緒に、これをとりあえず形にしたいて感じかな。




そこからはメンバーにとって地獄だっただろう。

ひとときも休まる間なく私からの激烈指導。

ぐんぐん伸びる技術向上。

人間のやる気は不可能を可能にする。


気付けば時刻は18時。


ちゃんと形ができてきている。



「よし。それじゃ時間も時間なのでそろそろ。」


「いや、私たちはもう少し練習しますので!」


「ほんとに?」


「幸い明日も借りてますんで!」


「わかりました、くれぐれも体調には気をつけてくださいね。」


「ありがとうございます!」


「じゃ、私はここで。」




「「「「ありがとうございました!!!!」」」」




私が今日ここへ来るということで、Wooの事務所の方も何人かスタジオにお越しだった。

私が帰るタイミングでみなさんも帰るとのことだったので、ついでなので私も車に乗せてもらおう。




「いえ、先生は今日お車じゃないとの事だったので、こちらの方で移動車用意させていただきました!」




えぇ、いいのにそんな…。

しかもレンジローバーイヴォークじゃん…。



「事務所の車なので、全くお気になさらないでください!一応1週間借りてますので滞在中はご自由にお使いください!

アメリカにお帰りの際は空港の駐車場にそのままにしといてくださればこちらで回収いたしますので。

一応、お手数おかけして申し訳ないんですが、ご連絡だけお願いいたします!!!」




事務所の車がイヴォークな訳ないので絶対誰かの私物でしょ…。

ここまでされちゃ悪いよ…。


「すいません、お気遣いいただいちゃって。

ありがたく受け取ります。」

だが人の厚意には全力で甘えていく。



「よろしくお願いします!」






その頃Ma'am Wooが所属する事務所の社長が車が盗られたなどと大騒ぎしていたとかしてないとか。




「さて、早坂さん迎えにいきますかね。」




待ち合わせ場所は東京ミッドタウンの、あの、なんか開けたところ。




もういるかなーと思って来てみると、いた!

遠くからでもわかる美人オーラがすごい。


幸祐里にもひなちゃんにも連絡せずに違う女と飯食ってたとかバレたら殺されちゃうよとか頭よぎったけど、まぁ私は今のところ誰のものでもないので。


ご飯だけならいいでしょ?


ご飯だけならね。




「お待たせしました。」


「私もさっき来たところです!」


「ほんとに〜?あ、乗って乗って。」


「ありがとうございます!お邪魔しま〜す。」


「なんか私服姿って新鮮ですね。」


「ですよね!私もなんか変に緊張しちゃって。」


早坂さんは手で顔を仰ぐ仕草をする。

あ~、この仕草好き。




「おかしいとかないですか?」


「もちろん!制服姿も素敵ですけど、私服姿もとっても素敵です。」


「…嬉しい…!」

ちょっとデレっとした、えへへと言った顔になる早坂さん。

素の表情が見れて最高。

美人系の顔の人が可愛い顔するのずるくない?

てぇてぇ。(孫悟空)



「さて、今日は私のお勧めのお店でいいとの事でしたが、何か食べたいモノはありますか?

肉とか魚とか、和とかフレンチとか。」


「和食がずっと恋しいので、魚で和食がいいですな!」


「そうですな!!!ではそちらへ向かいます!」


まだまだ夜は始まったばかりだぜ!

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